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【Punctuation】TOMMY:祖父から継いだ鍼灸への道、未来へつなげる伝統の火

1993年生まれ、群馬県邑楽町出身のTOMMY(富澤典幸)。幼少期から母や祖父母の愛情のもと、自然と人を思いやる心を育んできた。祖父が志した鍼灸の道を受け継ぎ、患者との対話と施術を重ね、技術と道徳観の向上に努める。そして、現代社会における鍼灸の魅力を世に広めたいと願い、心と体の癒しを提供し続けている。

Instagram : https://www.instagram.com/yosugaacupuncture/


1. 生い立ち

-簡単に自己紹介を。

群馬県邑楽町出身。3人兄弟の次男です。兄には失礼のないようにコミュニケーションをとるんだけど、弟からは「おいっ」とか言われるね(笑)。

-まわりの人からはどういう人だと言われる?

友達や患者さんからは「優しい」ってよく言われる。「しっかりしてる」とかも言われるけど、その自覚は全然なくて。「しっかりしないと」って常々思ってるよ(笑)。

母親からは「兄弟想い」って言われるね。小学生のころ、弟が学校で頭に3センチくらいの切り傷をつくったことがあって、俺弟のことが心配すぎて号泣して。

「やっちゃん(弟)大丈夫? 大丈夫?」って自分の授業ほったらかして、保健室から動かなくて。で、 その様子を教頭先生が見て泣くっていう(笑)。

-めちゃ弟想いだね(笑)。どういう子どもだった?

昔からキャプテンや学級委員長とかに指名されがちだったかな。先生や監督から「お前しかできないだろ」って言われることが多くて。

自分も全然嫌じゃなくて、むしろ「みんなをいい方向に引っ張っていきたい」って思ってた。

ただ、自分の力を標準と考えてしまって、それに伴っていない仲間に強く当たってしまうことがあったね。

今考えたら、みんなの能力や特性を見ることができればよかったなと。

-育った環境について教えてもらえるかな。

ほぼ母子家庭で育ってきたんだけど、母親は教育に関してはすごく厳しい人だったね。携帯もゲームも禁止で、ダメってことが多くて。

中2のときにそれが窮屈で、祖父母の家に引っ越した。ふたりとも甘やかしてくれるし、夜遊びもできたし(笑)。

母親は「あんたまったく」って感じだったけど、ふたりに面倒見てもらえることは安心だったんじゃないかな。やんちゃな子どもだったから(笑)。

-やんちゃな子供だったことは想像できる(笑)

祖父母の家にいたとき、ばあちゃんが透析治療をしてて、おしっこのバッグの交換とか生活の補助もさせてもらってたね。

大好きなばあちゃんが困ってるのはいやだから。そのときはじいちゃんが診てた患者さんも家を出入りしてたし、「病気」というものが身近にあったね。

-TOMMYはお母さんの話もよくしてるよね。

母親のことはもちろん大好きだし、尊敬してるよ。俺なんかよりずっと祖父母の介護をしていたし、今でも介護の仕事をしてる優しい人。

自分の親や家族を大事にすることを、母親から学んだね。たくさん迷惑かけたから、恩返ししていかないと。

-祖父母はどういう人だった?

ばあちゃんは大きな愛がある人だった。じいちゃんは元々自衛隊で、そのあと実家の板金業を継いでたんだけど、最終的に鍼灸師をしてたね。

俺が鍼灸を始めたのは、じいちゃんの影響。

2. 祖父について

-おじいちゃんが鍼灸師になったきっかけは?

じいちゃんが板金業をやってた頃、夜中に作業をしてたときに急にばあちゃんが現れて、びっくりして釘を飲み込んじゃったことがあって。

そのときに鍼灸師さんを紹介してもらって施術を受けたら、釘が全部出てきて。「これはすごい!」ってことで、鍼灸を学び始めた。

同時期に、じいちゃんの母親が学んでたモラロジー(道徳)っていう学問にも傾倒していって。

-実際に施術を始めたのは、何歳くらいのとき?

40歳くらいのときに、人生を「人心救済」「人のために生きよう」と決意した。そこから本格的にカウンセリングやコウケントー(光線治療器)※を使用した東洋医学的治療を始めたって聞いてるよ。

※太陽光に似た光線を人体に照射することで、赤外線・可視線・わずかな紫外線等の連続スペクトル光線と熱の効果によって日常生活に必要不可欠なエネルギーを補う治療器(出典:https://koukento.co.jp/

-おじいちゃんの印象的な姿とかあるかな。

じいちゃんが施術している姿と患者さんの反応をよく思い出すね。

重病の方や余命宣告された人も来てたんだけど、じいちゃんの話を聞いたり施術を受けたりして、どんどん症状や顔色が良くなっていく人がいて。

自分が幼いながらに感じてたのは、じいちゃんの話をしっかり聞ける人とそうじゃない人で差があるなと。

病気が治りやすい人は、言葉を素直に受けとめる方が多い印象があったね。病気と戦うって1歩1歩だからさ。それができる人は治りやすいのかなって。

- 1日何人くらいの患者さんを診てた?

実家に大きなホワイトボードがあって、そこに1ヶ月分の診療スケジュールが書かれてたんだけど、1日8人〜9人くらいの患者さんの予約があったね。

最期のほうは、じいちゃん自身が前立腺の病気にかかっていたんだけど、膀胱からカテーテルを出しながら施術してた。

自分の身を投げ出して人を助ける……狂気だよね。そのときは「じいちゃん休めばいいのに」って感じだったけど、今振り返ると「かっこいい」と思う。

もうそれだけだね。超かっこいいよね。

-おじいちゃんの話でよく思い出す話とかあるかな

因果律の話かな。「物事には原因と結果があって、自分がしたことは全部自分に返ってくるよ」っていう。

その言葉は今でも心に残ってる。病気に対する考えにも通じるなと。

3. 鍼灸について

-鍼灸を始めたきっかけは?

俺が20歳のときにじいちゃんが病気になったんだけど、「この教えや技術を残さないと」と思って。じいちゃんからも「典幸(よしゆき)、お前がやれ」って言われて。

弟子を志願する人もいたみたいだけど、結局一人もとってなくて。「俺がやるしかない」って決めて。

21歳でそれまでやってた古着屋とか外仕事を辞めて、 鍼灸師の学校に通い始めた。だから鍼灸を始めてかれこれ10年くらい経つね。

-鍼灸にかける想いを教えてもらえるかな。

使命感がすごくあるね。「やるぞ」「逃げらんないぞ」っていう。でもいざ自分が鍼灸をやり始めたときは、正直恐くて。

鍼灸師免許を取ったあと、群馬の実家で高齢の患者さんをメインに施術してたんだけど、高齢者の方だから基本的に難病ばかりで。パーキンソン病、リウマチ、肝硬変、脳梗塞。

きつくてさ、「もう無理よ」みたいな。「もうさすがに抱えきれないよ」って、 一時期、人の体を診れなくなっちゃって。

じいちゃんの施術も見てきたから、「そこに達しないといけない」っていうプレッシャーもすごくて。

じいちゃんから引き継いだ患者さんたちに「よっちゃん、いつから始めるんですか?」って聞かれてさ、「もうちょっと待ってください」「自分を整えるので」って。

自分の体調が整えられないと、人のからだを診ることなんてできないから。

ようやく体調が戻ってきた26歳のときに、じいちゃんが診てた重度のアトピーの患者さんが、自分に体を任せてくれるって。

そのときは「どうすればいいんだ」って思ったけど、じいちゃんの言葉とか道徳観、学校で学んだ鍼灸を自分なりに掛け合わせながら施術していったら、患者さんの体の一部が綺麗に治って。

「これ、もしかしたらいけんじゃないか!」って思えたし、じいちゃんが「お前がやれ」って言ってた理由も少しわかってきて。さらに鍼灸に本腰を入れ始めたね。

-しっかりと下積みの時代があったんだね。

途中で挫折や凹むこともあったけど、現在まで鍼灸の道を続けられている。

紆余曲折のおかげで、今は重心を丹田に置いてやらせていただけているなって思うよ。今はどんな人が来ても、綺麗さっぱり体の不調を癒せる自信がある。

因果律じゃないけど、起きたことって全部自分に返ってくるから。あのときに頑張ってたのは、今の自分に返ってきてると思う。

-TOMMYは、今まで何人くらい診てきた?

患者さんは500人くらいで、施術した数は1,000人以上だね。

-施術をしていて、どういうときに喜びを感じる?

やっぱり、うれしい言葉やありがたい言葉をいただいたりする瞬間かな。一番「頑張ろう」って思えるね。

あとは、新しい技術や気づきを得たとき。例えば坐骨孔に針を入れたいとき、「この部分にこの角度で刺したほうが入りやすい」っていうのがわかった瞬間に、「よしっ、新しいスキルゲットした」とか「こうなってたんだ」みたいな喜びがあるよ。

人の体はいろいろなことを教えてくれるから、毎日成長する機会がある。鍼灸は天職だと思ってる。

-「上達してきてるな」と感じる部分はある?

問診が上手になったかな。患者さんからのお話を聞くだけで、その人の体質やどこの臓器に乱れがあるかを、短時間で推測できるようになったね。

そこから仮説を立てて、患者さんに最適な治療カリキュラムを提供する流れもスムーズになってきた。

今は30分もらえたら、ほぼ的確な患者さんの東洋学的弁証をお伝えすることができるよ。

もちろん針を刺す技術も向上しているけど、人の体を理解する能力が特に伸びてる。これは臨床を積み重ねてきた結果だと思う。

-「学んできたことが活きてる」と実感する瞬間はある?

まさに昨日そういう瞬間があったよ。学校で学んだ、心火亢進(しんかこうしん)という症状があるんだけど、心臓の火が亢進して、顔がほてったり、独り言、ため息が多くなるんだよね。心臓に熱が溜まっている状態。

昨日の患者さんはまさにその症状で、顔がほてっていて、針を刺したら「これ気持ちいい」ってつぶやいていて、口数も多くて落ち着かなくて。

「教科書で学んだことは確かなことだったんだ」っていうのを再認識できたね。

4. これからについて

-これからやっていきたいこと、挑戦していきたいことは?

鍼灸はまだまだアンダーグラウンド、「知る人ぞ知る医学」という印象があるから、もっとオーバーグラウンドにしていきたい。

自分の診療所を、初めて鍼灸を受ける人でも入ってきやすい場所にしたいなとも思っていて。

あとは、あたたかい心で施術していけたらいいかなって。「おいしいご飯出すよ」「100円でいいよ」みたいな。そういう体制を作っていくのが目標。

実家でも開業したいし、お弟子さんもとっていきたい。もし自分についてくれるのであれば、自分の信条や技術を伝授して、後世にもつなげていけたらなと。

-今ってどういう世の中なんだろう。

なんだろう。「混沌とした社会」という印象はあるかな。

鍼灸師としての視点だと、コロナもあったし体のこととかについて、みんな少しずつ何かに気づき始めて、前を向き始めている人が増えていると感じていて。

-TOMMYは世の中に対して何ができると思う?

自分のやるべきことは、人の体と心を美しくして、世の中がいい方向に行くように導くことかな。

こういう時代だからこそ「なにくそっ」って気持ちで鍼灸に取り組めるし、健康な人を1人でも増やせば、世の中は絶対良くなるって信じてる。そういう道しるべでありたい。

-インタビューを振り返ってみてどうかな?

「強く願ったらその通りになる」っていうのが実感としてあって。なりたい自分になろうとすれば、誰でもなれるから。それを知ってるから。

だからそれを念頭に置いてやるべきことをやっていけば、確実に結果を出せるんじゃないかな。

このマインドを作るまでは大変だったね。ここまで「鍼灸やる」って言って「やっぱりやめます」ってわけにはいかないじゃん。

「この火を燃やし続ける」と決意するまで時間はかかった。でも、今はその火が大きな火になっていて、絶えないものになってる。

今後やるべきことが定まってるから、一歩一歩進めば大丈夫。

壁が立ちはだかってきたとしても、ひとつひとつ乗り越えていけば、確実にいい結果が待ってる。

そういうビジョンが見えてる。


以上