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「普通の家計簿では、知らぬ間に予算を越して、後で心づくということになりますゆえ」---明治時代の雑誌から
羽仁もと子は、雑誌『家庭之友』(『婦人之友』の前身)を創刊した翌年の明治37年(1904年)12月に、家計簿を考案・発行しました。
今年で120周年を迎えるにあたり、120年前の『家庭之友』をめくり、家計簿が誕生した当時をひもといています。
さて、今回は、家計簿が世に出る少し前、明治37年10月発行の『家庭之友』掲載の「家政問答」から問答を一つご紹介します。言葉遣いは、読みやすいように現代仮名遣いにかえています。
問 生計とにかく不足がちです
夫婦に子ども3人。月収20円。月々必ず支出を要するものは、国庫納金20銭、家賃1円90銭、義務貯金2円、授業料30銭、新聞雑誌48銭、教育会費12銭、〆5円。残り15円にての生計兎角不足がちで、本年1月より6月までの平均支出は左の通でございます。いずれの費目より減じて然るべきかお考えを願います。差引1円54銭4厘の不足になります。
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答 前もって予算を定めて、是非々々その予算以内ですることにせねばなりません。
衣服と臨時費が割合に多すぎると思います。衣服にしても臨時費にしても、あれもなければこれもなければと、必要の方から考えたなら、費用は何程でもいるわけでありますゆえ、以上のご経験に基づき、前もって予算を定めて、是非々々その予算以内ですることにせねばなりません。
それには普通の家計簿では、知らぬ間に予算を越して、後で心づくということになりますゆえ、本誌第1巻4号に記した方法で帳面をおつけになることが必要です。
そして交際費、郵税雑費を合わせて1円10銭とし、衣服費を1円50銭、臨時費を1円にできますなら、1円16銭5厘の貯金になります。
家計簿の原型が『家庭の友』に
月の支出が16円54銭4厘の家計を、「1円16銭5厘の貯金になります」(つまりは13円83銭5厘)にまで予算をバッサリ削る手腕にうなってしまいます。「郵税」とは「郵便税」のことで、当時の郵便料金の呼び名です。
「本誌第1巻4号に記した方法で帳面をおつけになることが必要」と書かれていますが、それは明治36年7月発行の『家庭之友』のことで、「我家の家計簿」という記事が4ページにわたり掲載されています。
抜粋しながら、記事を紹介します。
女学校育ちは家政に疎いと申しますが、お恥ずかしいことには私もまたその一人でございます。いつも月末になりますと、初めの予算がガラリと外れて、コンナに沢山費ったのかと驚くだけのことで一向何にもなりません。次からはモー少し倹約したいとは思いますが、別段に無駄と知りつつ買ったものは一つもありませぬゆえ、来月になってみると矢張同じように使い道がでてくるのです。で、私はいろいろ苦心の末、3、4カ月前より一つの家計簿を考え出しました。
まず第一に収入の総額より貯金と臨時費を引きまして、残りの額を各費目に割りあててそれぞれの予算を定めました。
(略)
副食物は、1日の割当60銭よりその日の金額52銭を引いて、8銭残ったものを、明日分の60銭に加えます。<中略>このようにつけていって、もしも剰余がだんだんに積もった時は、折を見て家人にご馳走をいたします。
(略)
車代(予算1カ月6円)は、「1日 日本橋迄往復 50銭」と記したら、50銭を6円より引き、5円50銭を次に記しておきます。数日後、25銭を使いましたら、5円50銭より引き、あまり5円25銭を、また次に記入します。
段々にこのように書いていって、月の10日に4円残っていれば予算通りなのですが、もしそれよりも少なく残っているなら、余程気をつけて倹約せねばなりません。今日は車に乗ろうかと思ってもできるだけ我慢すると、チャント月末にはそれだけの効能が現れます。<中略>この家計簿は即ち貯金箱の代用もつとめております。
(略)
この家計簿になってからは、月末に書く費目の余り金を一つにまとめて、そのうちの幾分をもって家人の労をねぎらうことにし、他の部分は道具や書物を購うことにいたしましたから、家人は非常な興味をもってこの予算を重んじてくれます。驚くばかりに多かった雑費は月々減って参ります。
(略)
また普通の家計簿は月末になって、一々各費目を調べたいと思いますと、非常な手数を要しますが、この家計簿によりますと実に簡単です。すなわち車代にしても、翌月の1日に1円が残っているなら、その1円を予算の6円から引いたものすなわち5円がその月の車代とわかります。
「倹約したいとは思いますが、別段に無駄と知りつつ買ったものは一つもありませぬゆえ」に支出が減らない、とは、昔も今も同じすぎて共感しきりです。予算があっても「必要だから」で買い物をしていては、いつまでも予算超過。そこで、買い物をするたびに予算から差し引きしていく家計簿が提唱されたのですね。
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