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ある さぎし の おはなし

 むかし、あるところに一人の詐欺師がいました。この詐欺師がうそを言い始めたのは14歳のころ。ばれないように少しづつ、みんなをだましていたのでした。

 詐欺師はみんなをながいあいだずーっとだましていました。けれども、それは自分が儲けようとか、だれかを不幸にしようとか、そういう目的ではありませんでした。詐欺師は自分の身を守るためにみんなをだましていました。詐欺師は自分が死ぬくらいならと、罪を犯すことを選んだのです。 

 詐欺師はどうしたらみんなをだませるか考えました。まずはみんなを観察するところから始めました。そして、詐欺師は気づきました。みんなの人気者になれば、信頼されるだろう。詐欺師は一生懸命お笑いの勉強をしました。このさくせんはうまくいきました。みんな自分と仲良くしてくれます。詐欺師は、それは本物だと思いました。

 ただ一度だけばれそうになったことがありました。ある人に気づかれたような気がしたのです。詐欺師は怖くてしかたがありませんでした。詐欺師は夜眠れないほど気になっていました。しかし、それから何日たっても、ばれることはありませんでした。

 それから何年か経ちました。何年か経ちましたが、詐欺師は相変わらずみんなをだましています。だれも不幸にしない、自分一人だけを傷つけるうそをつき続けていました。そして、いつしか詐欺師は傷つかなくなりました。いえ、詐欺師は痛みを感じなくなったのです。

 そんな詐欺師にもほしいものがありました。それはどこにあるのかもわかかりません。詐欺師はそれを本などでは見たことがあるけれども、実物を見たことがありませんでした。

 ある日、詐欺師はいてもたってもいられなくなりました。どうしても欲しいものを手に入れたいのです。そして、どうやって手に入れるかを考え続けた結果、詐欺師はわかりました。それを手に入れるには、今までの罪を告白しなければならないのです。長年のうそを白状しなければならないのです。

 詐欺師は悲しみました。罪の告白は、自分を殺すかもしれないからです。
詐欺師はなやみました。外をうろうろしながら、なやみ続けています。

 結局詐欺師は罪の告白をしませんでした。そんなことが出来るなら詐欺などしていません。

 詐欺師は今日もうそをついています。しかし、詐欺師のうそは以前よりもすこしぎこちなく見えるのでした。
                    
                                                                    つづく