忘れじの洋館にて
市内にある山の頂上には、奇妙な洋館がある。人の気配はしないのだが、妙にきれいな扉などは、人以外の何かがいるようにも思えた。
私は、その洋館が妙に気になっていた。そのおり、オカルト研究会の次のターゲットが件の洋館になった。その調査員にもれなく私・・・のみが選ばれた。
ドアを開ける。中に入ると最奥に続く長い廊下の左右に、部屋が二つづ並んでいた。
各部屋の前には表札が立てかけてある。右手前の部屋の表札を見ると「1」と書かれている。左手前の部屋は「2」だ。おそらく、その他の部屋にも数字が書かれているのだろう。私は何のためらいもなく「1」の部屋に入った。
中には家具の類は一切なかった。ただ、入口からまっすぐ前を向くと、絵画が一枚だけ飾られていた。隣にはプレートが張り付けてある。おそらく解説だろう。
「荒唐無稽 策士策に溺れる。どんなことを秘めていても、秘密の存在がばれなければ意味がなし。完全犯罪の虚しさたるや」
・・・これは果たして解説と言っていいのだろうか。
1の部屋をでて2の部屋に入る。2も1と全く同じインテリアであった。絵画を見る。
「有象無象 死んでも死にきれぬ 不透明な亡霊は恐怖も呼ばぬ」
どうやら同じ人が書いたものらしい。となると、この洋館はその画家のものか、あるいはコレクターの家か。
3の部屋に入る。相も変わらず同じようなインテリアだ。しかし、少し違う点もある。絵画の他に、小さなテーブルとレコードプレーヤーが置いてあった。レコードがセットされているが、曲名はかすれていて読めない。
絵画を見る。
「意気消沈 こればかりは無念 その役割いまだ果たせず。」
この絵画だけはとても抽象的なものであった。
4つ目の部屋に入る。そこにはレコードプレイヤーはなかった。
「」
この絵画には解説がなかった。その代わり、絵画の隣に写真が貼ってあることに気が付いた。真っ暗な部屋の中に人影がある。性別も判別できないほど、人影は暗闇に包まれていた。ただ、黒い瞳だけは、はっきりとこちらを見ていた。
これで終わりか。念のため廊下の突き当りまで進む。
おや、壁に不自然なへこみがある。押してみると天井から音がし出した。天井の一部が開き、中から階段が出てきた。上へとつながっている。
私は意を決して階段を上り始めた。