著作権を取り巻くいろいろな概念について
今回は著作権に関係する有名な用語を整理していきます。
1~3の著作権、著作者人格権、著作隣接権については、こちらのnote、著作権外観により詳しい内容を整理しています。
4は著作権の制限、つまり日本の著作権法において例外的に無許諾での利用が許される場合で個人での利用で特に重要なものの概要を整理しています。
5~8はネット上で無料素材を探すときによく出くわすやつらの整理です。
9、10はアメリカ法の概念ですが、Youbute、Twitterをはじめとして有名なサービスの多くがアメリカ企業であるために国内でも割と頻繁に聞く概念を整理しました。
1.著作権
著作者人格権と区別して著作財産権とも。著作物の財産的側面に注目した権利。大きく4つのジャンルに分けられます。以下の2~4の「~に関する権利」は便宜的に付けた名称です。
複製権
キャッシュや画面表示は複製とはなりませんが、DLはもれなく複製権の行使になります。アップロードも同様です。DL,アップロードをしたらその回数分複製権を行使したことになります。
公に伝えることに関する権利
上映権、口述権、展示権、上演権、公衆送信(ネットへのアップなど)権
いわゆる「無断転載*¹」は公衆送信権の侵害。
著作物を他者に渡すことに関する権利
頒布権、譲渡権、貸与権
著作物を加工することに関する権利
翻案権
翻訳、ノベライズなどメディアの変更、編曲、脚色などをとおして「新たに著作物を作る」権利
この時新しく作られた著作物を「二次的著作物*²」と呼びます。
色のネガポジを変えた、アスペクト比を変えた、などだれがやっても同じ結果になるようなものはただの複製とみなされる(無断でやれば複製権の侵害)。
二次的著作物の利用に関する権利
翻案により作られた二次的著作物の利用については、原作者は二次的著作物の著作者と同じ種類*³の著作権を持つ
つまり、公衆送信などの権利行使において原作者に伺いを立てる必要がある。
2.著作者人格権
著作者の人格にかかわる部分を保護する(精神的に傷つけられない)ための権利。著作者の人格の保護という目的から「譲渡不可能」な権利です。
公表権
初めて公にするタイミングを決める権利。
この権利だけ一回限り。初公開の後の公表は著作権の「公に伝えることに関する権利」群の領域。
製作途中のを勝手にアップされた、などが公表権侵害の例。
無断で公表された場合は公表扱いではないので改めて公表タイミングを権利者が決めることができます(ネットの拡散速度考えるとあまり意味はなさそうですが)。
氏名表示権
本名でクレジットするか、ペンネームなど変名でクレジットするかを決める権利およびクレジットの様態を勝手に変えられない権利。
紙面に入らなかったから省いたね(事後連絡)、とかはこの権利を侵したことになります。
同一性保持権
作品に断りなく手を加えられない権利。タイトル、内容両方にかかります。
3.著作隣接権
著作物を利用した人々(以下に列挙)の権利。実演、レコードは実演、記録した著作物の二次的著作物といえるのでその点の考慮が必要です。
実演家:実演(台本に対する演技、歌詞に対する歌唱、楽譜に対する演奏 等)
実演家のみ人格権を有する。実演した段階で公になっているので、氏名表示権と同一性保持権のみ有する。
レコード製作者
放送事業者(有線放送、無線放送で細かいところが異なる)
このような者たちの二次的著作物(実演やレコード、録画)に係る権利をより詳細に規定したようなもの。著作物に関する著作権と項目は同じ。
4.著作権の制限
著作権には、著作物による文化の発展という名目で「一定の条件下では著作権の保護を適用しない」という規定があります。これを「著作権の制限」といいます。
普通、問題になるのは「1 私的利用」と「2 引用」ですのでこれらについて整理します。
私的利用
個人的楽しみのためなら無許可でイラストのコピーをとって部屋に飾るなどしていいよというものですが、基本的にオフラインでの話です。クラウドストレージやSNSに上げた時点で「公衆送信権の侵害」になります。
個人用Google Driveなどのようなプライベートなクラウドストレージも著作権違反というのはどうなのだという議論も確かされているはずですが、現状は権利侵害ということになります。プライベートなクラウドストレージの中身を権利者が見ることは考えにくいので立件されえないというのはありますが。
引用
無断転載の正当化のためによく主張される引用ですが、実はかなり厳しい要件があります。
要件1について
未公開の物を使えば当然、著作者人格権の公表権を侵害することになります。
要件2について
2については、判例から以下の二点で判断されるようになっています。
2-Aの主従関係については「分量」はもちろん、「内容」についても考慮しなくてはなりません。なお、「最低限度」については引用している著作物の属する形態(つまり、絵なのか、文章なのかなどということ)における慣例も参考にされます。
2.事例(判例)から見る2-Aの基準
「引用」か否かを判定する際に上記の要件1, 2-B, 3についてはそれほど混乱しない。問題になるのは、2-A:主従関係であることがほとんど。いくつかの判例を見ておおよその基準を見出したい。
<aside> ✅ まとめ ・コラージュのように作品を自作品に利用する →同一性保持権の侵害なので「引用」とは別口でアウト →「引用」としても主従関係になってないし、出典もないのでアウト ・列車写真集にラッピング車のような作品集への利用 →「引用」される作品の展示場所と利用点数に依存 (公共の場所であれば「引用」判定がでやすい) ・論説に作品のコマやスクリーンショットを利用 →論説の補足に必要最小限であれば「引用」 無意味ににぎやかしに使ってたりすればアウト なお、最終的な「引用」の成否は裁判所次第。
</aside>
要件3について
出所明示といわれる要件です。作品名(著作物の名称)、権利者が述べられていれば十分と考えられます。例えば漫画のコマを例にすると次のようになります。(ページ数はほかの人の参照のために着けることが多いです。論文とかだと該当箇所の明示のために付けられます。)
5.パブリック・メイン
ある知的財産について権利が発生していない、または、権利が消失している状態。
権利が発生していない例
法令や判決のようにその公益性から著作権の対象外とされたもの
権利の取得に手続きが必要な場合(特許権や過去のアメリカにおける著作権)に手続きをしなかったもの。著作権の登録が必要だった時代に手続きをしなかったためにローマの休日には著作権がないとのこと。
権利が消失している例
著作者の死後70年たったなどの保護期間切れ
権利が相続されなかったため権利者がいない場合
6.クリエイティブ・コモンズ
著作物をよりグローバルに自由に共有するというのを目標にどのような条件で著作物を利用できるかの共通ルールとその表明のためのマーク。
マークと認可の対象表:https://creativecommons.org/about/cclicenses/
7.フリー素材
制度上の言葉ではない。金銭的なコストなしにDLできる、程度で使われている。
CC0の素材サイトと銘打って違法アップロード素材を取り扱っているサイトも存在します。そういうサイトからDLした素材を利用したクリエイターが著作権侵害で有罪となった事例もあります。
また、特にCC0の写真素材サイトには注意が必要で、「写真の著作権はCC0だが、被写体の権利についてはサイトは感知していないし責任を負わない」と利用規約に書いてあることがあります。これはつまり、「写真を使ったとき、撮影者から差し止めされたりはしないが、映っている人から肖像権を主張される可能性がある」ということです。利用規約にこの内容が書いてあればまだ良心的で、利用規約に被写体の権利について書かれてないが実は同じように被写体の権利の保証はなかった、ということもあるでしょう。
フリーだから、CC0だからと鵜呑みにせず、そのサイトは信用できるか調べたり、人の顔や企業の製品が移った写真を避けたりなどの自衛が必要です。
8.ロイヤリティフリー
こちらも制度上の言葉ではありません。「ロイヤリティ(権利使用料)が発生しない」というのが素直な解釈ですが、使用料免除の対象となる権利の範囲が権利者によって異なるのはもちろん、ロイヤリティという言葉が権利使用料とは異なる独自用語として用いられることもある。
フリー素材と同様、自衛が必要です。どういう範囲でロイヤリティフリーなのか、そもそもロイヤリティといったとき何を意味しているのかは必ず確認しましょう。
9.フェアユース
著作者の権利を侵害せずに著作権で保護されている著作物を利用することをさします。本項目では特にアメリカのフェアユースについて記述します。また、本項目では利用する著作物が著作権で保護されている(切れたりしていない)と前提します。
要件1:利用の目的と特性
特性:著作物の単なる複製でなく、新たな価値が付加されている
目的:営利目的なのか、教育など非営利の目的なのか(営利目的だとフェアユースが成立しにくくなる)。
要件2:利用する著作物の特性
たとえば、報道のような事実をベースとしたものの方がアニメのようなフィクションを利用するよりもフェアユースとして認定されやすい(フィクション作品の利用のほうが当該作品の市場の横取りとみなされやすい)です。
要件3:使用された部分が当該著作物全体に占める分量や性質
日本法で言う引用に相当する要素です。分量的に当該著作物の使用が軽微である必要があります。ただし、作品の著作物としての(表現としての)本質的部分を取り出していれば分量にかかわらずフェアユースは否定されます。
要件4:当該利用による当該著作物の価値や潜在的市場への影響
著作者の権利やその価値を損ねるような利用はフェアユースが否定されます。例えば以下のようなものがあります。キャラクターに勝手に政治的イメージを付ける例は最近よく取り上げられますね。映画になったフェールズ・グッド・マンの例もあります。
公式と見紛うグッズなどを販売し、公式の市場を横取りする
侮辱的な作品を作り(声望を損なう使い方をし)作品にネガティブなイメージを付与する
政治的主張に利用して作者の意図しないイメージを付与する
c.f. フィールズ・グッド・マン
10.DMCA
the Digital Millennium Copyright Act
著作権に関する連邦法(アメリカ全土で適用される法律)。特に重要な事項はノーティスアンドテイクダウン手続 :notice and takedown(17 U.S.C. 第512条に規定)。著作権侵害コンテンツがウェブサイトなどに投稿された際の通報 (notice) と削除 (takedown) 手順および免責条件が明文化されています。
日本でも似た法律としてプロバイダ責任制限法というものがありますが、サービスに投稿されたコンテンツの削除の容易性がDMCAのほうが高いこと、TwitterやYoubuteなど大手ユーザー投稿型サービスのほとんどがDMCAの対象となることからこちらの方が話題になりやすいです。
ノーティスアンドテイクダウン手続の概要
インターネットサービスプロバイダに要求される手続き
サービス上のコンテンツに権利侵害が主張されたとき
削除に際して実際の権利侵害の有無の調査義務はない
プロバイダは当該削除に関して何ら責任を負わない(発信者に無断で消してよい)
発信者にコンテンツの削除の旨を通知し、反論の機会を与える
発信者から当該侵害について反論があった(対抗通知があった)場合
権利侵害を主張した者に対抗通知のコピーを送付
同時に一定期間後に当該情報を復活させることを通知
対抗通知を権利侵害主張者に知らせたのち一定期間の間に侵害行為の差止請求訴訟がなければプロバイダは当該情報を復活させる。
太字のようにDMCAに基づくノーティスアンドテイクダウン手続きがあった場合、サービス側としては対象となるコンテンツをとりあえず削除するのが一番安全な動きであるため、悪意のある人がDMCAしまくってクリエイターに嫌がらせする、というのがやりやすくなってしまっています。
しかし、申請者に「自身が正当な権利者である」ことを証明させるようにすると権利侵害コンテンツに対応する速度が全くでないため、難しいところです。