令和5年 司法試験 再現答案構成(商法)
設問1 (1)
1 423
(1)任務の特定=公正な価格で取引をする義務
→4000万円も上乗せして取引をしている。=任務懈怠
(2)反論①=重要な財産の譲受に該当し、取締役会の承認を得ている。
→取締役会の承認は任務懈怠を免除するまでの効力を有しない。反論は失当。
(3)反論②=総株主の同意(一人会社)
→反論は妥当であるので、任務懈怠は免除される。
(∵会社利益は究極的には株主利益。そして、行為時点において利益の究極的帰属主体である株主が同意しているのなら、不利益も含めて甘受しているということ。事後に株主構成が変わっても、行為時点で免除しているのであれば、その効果は覆されないと考えるべきである(時系列によって任務懈怠の存否が相対化するのは妥当でない。))
2 423条の責任は認められない。
設問1(2)
1 429
(1)任務の特定=債務超過又はそれに準じる状況になるおそれがあるときには、会社債権者の利益を害さないように意思決定をする義務がある。(∵取締役は経営のプロ)
(2)問題文の事実をあてはめ。
→担保を切り崩し、支払いに充当した時点で任務懈怠が存在する。
(3)そして、少なくとも切り崩したら債権者に支払いができないことを認識しているので、任務懈怠について重過失。
2 間接「損害」が生じ、それと任務懈怠との間の因果関係はある。
3 したがって、請求は認められる。
※感想
思考過程として、債務超過時には取締役は直接的には債権者に善管注意義務を負うと記憶していた(あっているか不明)。そして、問題文が丁寧にかいてあるので、これに即して債権者との関係での任務懈怠の「任務」の新たな設定が問題になっていると考えたが、どーか。
設問2
小問1
1 原告適格
(1)株式を相続した場合には、相続人で共有(∵自益権だけでなく、共益権も含む)=106条の適用→通知・同意がない場合には、原則として原告適格を欠く。
もっとも、会社が106条の使い分けにつき矛盾挙動をする場合などには信義則により原告適格を有する。
(2)矛盾的主張をしているので、原告適格あり。
2 訴えの利益
(1)訴えの利益とは、本案判決をする必要性。
取締役選任決議の取り消しの訴えの利益は、再任されている場合には原則として消滅する。もっとも、後行の決議に影響をあたえる事情があれば、例外的に訴えの利益は肯定される。
(2)あてはめ
決議①が取り消されると、遡及的に取締役・代表取締役たる地位が喪失(839反対解釈)。権限がない取締役ではない人が決議②を招集したことになる=決議②は不存在
なお、招集通知の趣旨は株主の出席の機会の確保であるので、全員出席総会であれば招集権限がないことに起因する決議②への瑕疵の連鎖が治癒される。
→しかし、本件では全員出席総会ではない。
(3)訴えの利益あり
3 本案
(1)106条は民法264条の「特別の定め」。よって、指定・通知がない場合において、会社が同意していたとしても、民法の規定に従った場合でない限り、当該議決権行使は決議方法の法令違反(831Ⅰ①)となる。
(2)本件は過半数必要(民法252Ⅰ)。それがない。
法令違反が重大であるので、裁量棄却の余地もない。
(3)請求は認められる。
小問2
1 346Ⅰ・351Ⅰにより、取締役だけでなく代表取締役も権利義務者として地位が継続。→そうすると、決議②の招集は、招集権限のある代表取締役が正当な取締役会で招集決定した事柄に基づき行ったことになる。
2 したがって、招集通知に瑕疵はない。
3 確かに小問2も全員出席総会ではないが、これは瑕疵が連鎖したことを前提とする治癒手段である。瑕疵がそもそも連鎖しない小問2では、全員出席総会を論じる余地は皆無である。
4 以上から、訴えの利益を欠く。