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医師と看護師の日常の一コマから「信頼関係」について考える

とある冬の日の帰り道
横断歩道にて信号待ちをしていた時である。
ふと今来た道に目を向けると、ひとりの人が手を振る姿が見えた。私に手を振っているんだろうか?
周りを見渡してみたが、私しかいない。でも…誰??

「おーい、オレだよ、俺。やっと気付いたか。手を振ってもキョロキョロして、私知りませんみたいな振りして、可笑しかったな〜」
「オレだよオレ、なんて言われて、オレオレ詐欺かと思いましたよ!まさか先生だなんて思わなかったから…だいたい、そんな全身真っ黒コーディネートじゃ怪しい人にしか見えませんよ。それに、こんな冬の帰り道にそんな格好では人目につかなくて危ないですよ。もっとアピールしないと轢かれちゃうかもしれませんよ!」 
「その心配は無用だ!ほら、これ付いてるからな。」
リュックに付いた反射材バンドを指差し自慢げだ。
「おまえこそ、だまされないように気をつけろよな、じゃ〜な〜」
暗い夕暮れの中をリュックに付いた反射材を光らせながら手を振り去っていく。


また、とある夏の日の帰り道
背後から誰かが走ってくる足音がする。
振り返ろうか、どうしようか迷っていると
「おつかれさま〜」
「?! 誰??」
キャップをかぶり、Tシャツにハーフパンツ姿のその人は…
「お、おつかれさまです」
ハッとしてとっさの一言を放った時はその人は私を追い越していたが、振り返って手を上げ、走って行った。
夕暮れとはいえ、まだ暑い西日の中を走って行くその人は、ジョギング中の先生であった。


というエピソードからもわかるように、
普段見慣れている姿と違うと一瞬誰だかわからない時がある。
黒ずくめの変質者や近所のおじさんランナーにしか見えなかったのに、白衣姿になったとたん「先生」になるのである。
ユニフォームの魔力は偉大である。
「医師」といえどもひとりの「人間」であり、「神」ではない。そんな「人間らしさ」にふれると何だかホッとする。
お互い遠慮なくズケズケ言い合えるのは、その先生の「人柄」も大いにあるのだが、「信頼関係」があってこそだろう。
残念ながら、看護師を単なる補助者としか見なしておらず、看護師には専門職としての自律した役割があることを理解していない医師もいる。
それに加えて、今でこそ男性看護師も珍しくはないが、看護師のほとんどは女性である。
一方で医師の大半は男性である。
男性である医師対女性である看護師という関係が、女性の地位を低いものと見なしてきた社会の伝統的な役割関係を強く浮き立たせている。


互いの役割を理解し合った上で信頼関係は築かれるのであろう。
医師と対等なパートナーシップを築くためには
医師の立場も理解しなければならないし、疾患や診断、治療についても理解しなければならない。
その人のことを思う、共感することは患者に対してだけでなく、病院という組織の中で働く全ての職種に対して言えることではないだろうか。


とはいえ、多種多様な人々がいるので、思いやりや共感が難しいことも多々ある。
しかし、自分の役割や立場を主張するだけでなく、歩み寄る姿勢を忘れずに、努力していきたい。


と、最後はまじめに語ってみたが、
先生がこの語りを聞いたら、なんと返すであろうか…


「そのとおりだ。もっと勉強したらオレのことをよ〜くわかるようになるぞ。」
なんて言われても困るので黙っておこう。

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