会計検査院のお仕事 その2
前回の記事では、筆者が指摘した検査結果の一部をご紹介しましまた。
今回も守秘義務に反しない範囲で、前回に引き続き筆者指摘の検査結果をご紹介します。
工事に関する指摘
昨年の経済産業省の検査結果のページです。
https://www.jbaudit.go.jp/report/new/all/ch3_p1_12.html
工事に関する指摘は、工事の設計が適切でなかったもの4件、工事の施工が適切でなかったもの1件で、これらは全て筆者が実地検査で指摘したものです。この中から1件ご紹介します。
受水槽の設計が適切でなかったもの
多くの建築物に備えられている受水槽に関する指摘です。この案件では、中学校に設置されているものについて指摘しています。学校の給水を一手に担うものですから、大型の受水槽です。
ここで、受水槽に限らず、建築設備一般については、想定される地震動に対して必要な耐震性能を有していなければなりません。特に学校は避難所にもなっていますので、震災時に水道が使えないのでは大変不便です。そのため、受水槽についても耐震設計を行うのが一般的となっており、具体的には設置に当たって床スラブコンクリートと受水槽とをアンカーボルトで緊結するなどします。これにより受水槽が地震による横揺れで転倒して破損することを防ぐことができます。
耐震設計について実地に確認したところ、大型の受水槽であるのに、径8ミリのアンカーボルト4本で止められるているだけでした。ある程度かじった人なら直ぐ気づくと思いますが、ボルトも細ければ本数も少なすぎます。耐震計算をしてみたところ、想定される地震動によりアンカーボルトに作用する鉛直方向の引抜力(ネジがすっぽ抜ける力)は約25kN/本になり、許容値の3kN/本の8倍超となっていました。
この中学校は北海道の西側に位置しているので、北海道胆振東部地震による被害は受けませんでしたが、場合によっては危なかったかもしれません。
ところで、工事の指摘が行われると、必要な手直し工事を行うこととなっています。ある意味では、会計検査院は国民の命を守る最後の砦として機能していると言っても過言ではないでしょう。
ちなみに筆者は工事検査が大好きで、退職後もしばらくは構造物を見ては設計は大丈夫かななどと思いを巡らせていました。在職中には指摘することはありませんでしたが、橋梁等の大型建造物の検査も行っていました。土木の設計屋さんのバイブル『道路橋示方書』も熟読していました。
契約金額に関する指摘
公認会計士らしくない仕事ぶりが多かった印象ですが、公認会計士の知見を活かした指摘もあります。
検査結果はこちら
https://www.jbaudit.go.jp/report/new/all/pdf/fy30_04_14_09.pdf
これは、原子力規制委員会が日本原燃(株)との間で締結している賃貸借契約について、賃借料の算定が合理的ではなく、適時に見直しを行なっていれば節減できたはずだというものです。
日本原燃(株)は、青森県六カ所村に使用済核燃料の再処理工場を設置しています(いまだに稼働していませんが)。再処理に当たっては、再利用可能なウランのほか、核兵器に転用可能なプルトニウムも抽出されるため、日本政府と国際原子力機関(IAEA)との間の保障措置協定により、一定の検査を行うことが義務付けられています。この検査を行うために、原子力規制委員会は、再処理工場内の一区画と必要な設備を日本原燃(株)から賃借しています。
この賃借料は、日本原燃(株)が設備等の取得に当たって肩代わりした金額を国が全額負担することになるように計算されています。まあリースみたいなもんですね。税金で支弁すべき条約履行のための検査費用は民間企業が負担すべきではないという考えが背景にあります。この考え方自体は、あながち不合理ではないので、指摘にはなっていません。
問題は、毎年の賃借料として国が分割払いをすることによる利息相当額の算定です。要はリース会計のような計算をするわけですが、最初に契約した15年も前の金利で計算していました。マイナス金利政策により金利はかなり低くなっているので、これでは利息相当額が実態に合わず、不相当に高額になってしまいます。結局、直近2年度だけでも、2060万円が節減できたと認められました。
検査報告に記載されていないので詳細は書けませんが、結構複雑な複利計算をしています。少なくとも公認会計士試験で出る問題よりは難しいです。この部分で公認会計士の実務を経験している筆者はお役に立てたのではないかと思っています。
今回はここまで。機会があれば森友学園の検査報告について記事にしたいと思います。
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