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#夜更けのおつまみ 顆粒の「ガラスープの素」

同意はしてもらえないだろうけれど、顆粒のガラスープの素はお酒のおつまみになる。個人的には。

いかにもビールに合いそうなスナック菓子の、パッケージ裏に書いてある原材料表示を見てみてほしい。そこには結構な確率で「チキンエキス」や「ポークエキス」といった名前が並んでいるはずだ。

これらの添加物(調味料)はその名のとおり、動物系の素材から抽出した成分を凝縮したもので、注意して見るとスナック菓子以外の食品にもしばしば使用されているのに気づく。

例えば顆粒のガラスープの素。

つまりどういうことかといえば、ガラスープの素はその原料においてビールに合いそうなスナック菓子と決して少なくない共通点を持っているから、顆粒のガラスープの素はお酒のおつまみになる。例えば日本酒を飲みながら舐める塩のように。


ちなみにこのことを発見したのは大学四年の秋、自作の小説や脚本を新人賞に送るという高校時代から続けていた生活に一旦ピリオドを打ち、従来比数割増しの真面目さで卒業と就職を目指していた頃だった。

その頃の就活は、リーマンショックや東日本大震災の直後ほどではないにせよ、売り手市場化が叫ばれているここ1~2年と比べれば、まだほんのわずかに厳しかった(特に自分のような人間にとっては)。

そしてようやく小さな会社から内定を貰ったものの、就活の長引きがそのまま卒論の進捗の遅れとなっていて、ゼミに顔を出すのもストレスになっていた。

おまけにその内定を頂いた会社ではちょっとしたゴタゴタが起こっていて、大雑把にいってしまえば「翌春にはその会社がどうなっているかわからない」という状況が生じていた。

同期の数人は、この時点で既に内定を辞退していた。

そんな諸々のせいか、その秋は軽い不眠に悩まされていた。それに眠れても、卒論に使う文献とMS Wordの画面が夢に出てくるような有様だった。

例えて言えば、チャック・パラニュークの小説『ファイトクラブ』の主人公(映画版だとブラッド・ピットではなくエドワード・ノートンが演じていた方)のようなやつれ具合だ。


そんな有様だったから、ある晩はもう眠れないのに横になり続ける虚しい努力をあきらめて、台所に来て冷蔵庫にあった所謂“第三のビール”の缶に手を伸ばすことにした。

片手に缶。もう片方の手にはスマホ。

既に内定を辞退した同期の一人に「このタイミングで内定を辞退したらどうなるのか」という相談をLINEでしようと思ったものの、アイコンをタップしたところで今が午前二時台であることを思い出し、結局メッセージは打ち込まず、ほろ苦いだけの炭酸水のような第三のビールをちびちびと飲みながら、会話の履歴だけを遡って眺めていた。

彼女とのトークルームには、いつのまにか会話の履歴が大量に溜まっていた。内定先企業の少々特殊な状況のせいで、僕らの間には不思議な連帯感が生まれていた。

そんな中、以前の自分の発言から、自分が過去に仕上げていた小説を就活の合間に――あくまで軽い気持ちで――改稿した上で新人賞に送っていたことを知った。日々に忙殺される中で、応募したことも、その結果がとっくにHP上で発表されているはずであることも、完全に忘れていた。

すぐウェブブラウザを立ち上げて、賞の名前で検索する。すると中間結果だけでなく、最終候補作と受賞作まで既に発表されていた。

自分の名前と作品のタイトルは、中間発表のページにだけ載っていた。それでも十分嬉しかった。

缶の中身を一気に三分の一ほど飲み干す。無性にスナック菓子が食べたくなったが、生憎台所にその手の品のストックはなく、代わりに目についたのが顆粒のガラスープの素だった。

容器を手に取り、ラベルを眺め、そして原材料表示を見る。

食塩、チキンエキス、ビーフエキス……
静かに蓋を開けて、小さじ一杯分ほどを手のひらの上に出し、そっと口元へ運ぶ。

顆粒を舌にのせると、調味料らしい塩辛さと、凝縮された中華の香りが口に広がり、狙った通りほろ苦い飲み物が欲しくなる味だった。



今でも顆粒のガラスープの素の味は、あの午前二時台を思い出させてくれる。



(2020/1/4一部修正)

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