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親を看取る(3)
2017年8月25日、入院最後の夜に脳梗塞を起こした父は、一時意識不明になった。このまま亡くなるのかなと思っていたが、数日後に意識を取り戻した。左半身には重い麻痺が残った。
日常的に病人に接していない人にとって、人相の激変した家族と対面するのは結構なショックがある。
父の場合、重い麻痺で左顔面を含む左側半身全てが動かない状態になっていたことと、三途の橋の途中で引き返してきた感じの迫力ある衰えは、なんというか壮絶で別人レベル。
「ああ、これはもう何やっても回復するとか、あり得ない感じだな」
と思ってしまった。
過去2回の脳梗塞は、軽かったのと、父のマメできっちりしたリハビリ継続で回復できて元の生活に戻った。でも今回はレベルが違うぞ、という感じ。
そもそも自発的にやれるリハビリがあるとは思えない。
ここからどう頑張っても自力で歩いて自分の世話を自分でやるという奇跡は起きないだろうと実感した。
病院からは
「介護認定を取ってください」
という指示が入った。聞いたことはあったが、どうやって手続きして良いかもわからない介護制度。使い慣れないこの制度の仕組みと内容をここから学ぶことになるのだった。
(ここはかなり大事なポイントだったので後日ゆっくり書こうと思う)
誰もいなくなった午後の外来ロビーに降りてコーヒーを買った。
もし、父があのまま元気で退院し、自宅に戻ったその日に自分の布団の中で同じことが起きていたら、一体どうなっていただろうかと母と話した。
「起きてくるのがいつもより遅かったとしても、久しぶりに自宅に戻れてぐっすり眠れているのかもと思って起こしに行かなかったと思う。発見がもっと後になって、そのまま布団の中で亡くなっていたかもね」
と母が言った。
不謹慎を承知で言うが、わたしは心の中で、
自宅で死ねたかもしれない幸せについて考えていた。
83歳の人生として、もしも自分だったらどちらを選びたいかを。