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咀嚼

「『私たち外れ値だから』『人間に対してハズレだなんて失礼な言い方をすべきじゃないよ』『じゃあ、有意水準から離れてるものをどう表現すればいいの?単なる統計用語でしょ?』______その人にとって今後一生知る必要のない言葉だろうし、常識が違う人と長時間一緒に過ごすのは難しい」

友人がそんな投稿を目にしたらしく「どう思う?」と聞かれた。

トランプ大統領の話す英語を中学生レベルと揶揄する声もある。意図の有無はわからないが、その点に関しては肯定的意見を私は持っている。

移民の国として成り立った歴史から、いろいろな国の出身者が各地に住む他民族国家アメリカで話されている言語の数は、現在約350以上とも言われている。

アメリカには法で定められた公用語はなく、英語が「事実上の公用語」として存在するが、州や自治体による言語の地域差も非常に大きい。

英語の読み書きを必要とされない環境で、支障なく生活できる地域やコミュニティが各地に多数存在することを、お金が貯めてはアメリカを放浪していた学生時代あちこちで目の当たりにした。

一度行ってみたかったマイアミのゴルフクラブ。フロントスタッフがお勧め地元レストランを教えてくれると言う。スマホがなかった時代、店名を書いてもらおうとメモ帳を取り出した私に、英語を書くことは難しいと言われ、自分の認識の甘さを恥ずかしく思ったことがある。

言い訳をすれば、彼の話す英語に独特なアクセントはなく(よっぽど私の方が奇妙なアクセントをしていたに違いない)視覚的情報からも彼が識字しないことを想像できなかった。

「移民や難民を広く受け入れる」ことが元々政策の一つであったし「宗教、言語、出身地(国)、出自によって差別されず」「万人に平等な権利と自由を保障する」と"掲げている"(が、現実はなかなか理想通りにはいかない)国なので、ひとつの言語だけに絞り「公用語」として制定できない背景もあるだろう。

憲法や法律、政府の公式文書、公立の学校などでは英語を主要言語として使用されているが、日々の生活に密接な食品パッケージ、製品の取扱説明書、政府からの通知印刷物などには英語とスペイン語の両方またはそれ以外の言語を併記されていることも多い。

そのような国家で、国民に向けてわかりやすい英語を使うのは考えられた結果(戦略)ではないだろうか。と言っても、個人的に彼と会話をしたことがないので、普段プライベートでどのような英語を使っていらっしゃるのかは知る由もない。

インプットされた専門的な知識、日常会話で使われにくい用語、マニアックな事象、あらゆる要素を噛み砕いた上で、わかりやすい言葉に置き換えてアウトプットする「咀嚼」が"時と場合、相手"によっては重要だと思う。

「〜バリバリバリっ」友人と呑んでいて、もの凄い音がしたので見ると彼女はピスタチオを剥かずに殻ごと噛み砕いていた。

「ワイルドだね〜」
「なにが?」
「いつも殻ごと?」
「え?ピスタチオ?そうだけど?」
「口の中とか胃の粘膜やられない?」
「海遊魚はどうしてるの?」
「普通に殻を剥いてる」
「普通……?」

疑うことなく何十年もの間そうしていたと知り、皆で彼女の咀嚼力を称えた。

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