無々草粥
七草粥を作るつもりでいたが、体調を崩し野菜を洗って刻むのもつらくて断念。
無病息災を祈る前からつまずいてるやん、自分にツッコんで笑った。
バリバリ絶好調でいると、冷蔵庫の奥の方にうっかり冷遇してしまいがちな(冷蔵庫だけに)梅干しがこんな時はやたらと恋しくなる。
「こんな時だけ私を必要とするの?」
「ちがうちがう。忘れたことなんてないし、大切に思ってる。ずっと好き」
梅干しを箸で摘みながら、昔そんな会話を再現してすすり泣いていた友人の顔が重なった。
「ダツ(男子を仮名にしようとして何の魚に似てるかなと考えたらダツに似ていた)がね、まだバンドやってるんだって。でね、ライブに来てって久しぶりに連絡があったから行こうと思って。海遊魚も一緒に行こうよ」
その友人から入った年始メッセージにそう書いてあった。
「海遊魚!Journey歌ってくんない?」
私がバンドを始めたきっかけを作ったのはその男子のひと言だった。男子はギター、泣いていた友人はキーボード担当だった。
「Journeyもいいけど、Diana Ross歌いたい」
あえなく却下されたが、Steve Perryのどこか悲哀を感じる声にいつのまにか心酔していたし、洋楽を歌うことそのものがやっぱり楽しくて、そのバンドでの音楽性の方向は気にならなくなった。
彼女はその頃からダツのことが好きだったが、煮え切らないダツの態度に始終メソメソしていた。
大人になってからも、普段は冷蔵庫の奥に仕舞われている彼女に、ダツが困った時や弱った時だけ連絡がきていた。
それなのに、今では頭髪密度も著しく低くなったダツのライブにまだ行きたいんだな。
電車で二時間かけて私も冷やかしに行ってこようか、迷っている。歌いたくなっちゃうかな。
冷凍していた発芽玄米ごはんを、七草どころか一草も入らない粥にして梅干しをひとつのせた。
「Who's Crying Now」を口ずさんでいた。