生きよ。
あの兄弟の暮らす地に一ヶ月後改めて訪れると、大人の風貌で出迎えてくれた。まだ若干のあどけなさはあるが、周囲にはすでに親の姿はなく己の力で生きる時が来たようだ。
このキツネの兄弟に出会えるのもきっとこれが最後。静かに外に降り、同じ目線で同じ匂い、世界、時間を感じてみる。
キタキツネの世界は草の生い茂る世界が広がり、隙間からは兄弟の姿が見える。そして波の音や風の音がするたび海の香り、彼ら兄弟の匂いが鼻先をかすめていく。鼻息や擦れる砂の音、ほんの少しだけ出す微かな声が時たま耳元に届く。彼らの世界はこんな世界が広がっていたのか……。
この時以降姿は見られていないらしい。今はどんな景色を見て、今を生きているのだろうか。また会う時は一頭の大人のキタキツネとして再会することだろう。
その時まで、生きよ。