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#2 隣で。ずっと先で。
隣でキミが喜んでいる。僕も喜んだ。嬉しかった。キミのことが自分のことのように嬉しかった。
「やったぁ」「おぉ」「マジか」
この3つの言葉を繰り返すキミの目は幾度となく輝いていた。
「良かったね。おめでとう」
「ありがとう。嬉しいよ、本当に」
みんなは隣にいる僕じゃなく、キミの写真をたくさん撮った。僕も本当に嬉しくて、キミのその笑顔を、自分のスマホに納めていた。
「これから人気者だな」
「そんなことないよ。僕は僕だから」
そんなこと普通に言えてしまうキミが羨ましい。もう1度、僕はキミを撮った。
キミをずっと見てきた。ずっと隣で。だから、自分のことのように、幸せなんだ。だから、キミを妬んでしまうそうで、悔しいんだ。
素直に喜べない自分もいた。
隣にいたのに、ずっと先に行ってしまった。一緒に走り出したのに。
もちろんわかってるよ。
キミの才能だって、
キミの好きなことだって、
キミの苦手なことだって、
それでも、キミがずっと努力していることだって。
全部、わかっているから悔しいんだ。
僕はいつもキミに勝てなかった。
それでも、なんとかついてきて
やっと、勝負できるようになって
勝てることだって増えてきて
なのに、またずっと先に行ってしまった。
「待って」
キミを全部知っているから、そんなこと言えなかった。
自分の力で追いつきたい。待ってもらわなくたって。
追いつけないんだよな
無理なんだよ。キミは僕よりずっとできた人間だ。いつも先を歩いてて、たまにドジってるけど。そんなキミが羨ましい。キミみたいになんでもできる人間になりたかった。
でも、そんなことないってわかってるから。
キミの笑顔の裏にはたくさんの涙があって、頼って、頼られて、一緒に転んで、ぶつかって、手をとって、また走り出してきたんだ。だから、こうやって上辺だけのキミを羨ましがる自分が悔しくてしょうがないんだ。
今日も、あの日と同じような月が空から僕を見ている。
「これから、どうすんの?」
「どうするって?このままだけど」
「なんで?」
「当たり前でしょ。もしかしたら人気者になるかもしれないけど、僕は僕だよ。ずっと変わんないし」
「そっか。そうだよな」
「あのさ、僕がここまで来れたのは、キミのおかげだよ。だからさ、」
「わかってるって。何が言いたいか」
「じゃあ、いいや」
そう言ってキミは僕の横を歩き出した。
「ねぇ」
「ん?」
「明日もさ、隣歩いてくれる?」
「何言ってんの?僕の居場所はキミの隣以外どこっていうのさ」
「ここが僕の居場所だから」と言うキミは僕の目を見て笑った。
明日も隣で笑えるかな。いつか消えてしまうかもしれない。僕だって消えてしまうかもしれない。
僕の歩幅に合わせて歩くキミを見て、笑いながら、溢れ出そうな何かをグッとこらえた。
(キミ目線の話になっています。よかったらお読みください。)