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うみいろノートNo.22 12歳
君は大人のような聡明さと子どものような無邪気さを持ち合わせていた。
小学校3年生から6年生の間、クラスメイトだった。みんなが教室を走り回る中、ファーブル昆虫記を一人で読む姿。少し大きな眼鏡をかけ、気難しい顔を浮かべている君から、大人びた雰囲気を感じ取った。
体育の時間、巨大に見える跳び箱を前に足がすくんでいた僕。
「きっと飛べるよ。気持ちで飛ぶんだ」
名前順で一つ後ろの君が放った言葉がきっかけで仲良くなった。
やっぱり、君は普通じゃなかった。
テストはほとんど100点だった。そんな努力を惜しまない君が好きだったのは文学だった。
小学校高学年になると海外文学をよく読んでいて、特に記憶に残っているのはスティーヴン・キングの短編集だった。その中には映画化もされた″Stand by Me″もあり、目を輝かせながら、その魅力を語ってくれた。
「物語に出てくる主人公たちは同い年。これを読むと大人になんてなりたくないな」
その声は今でも鮮明に聞こえてくる。
中学生になると、僕らは違う学校に進学した。
公立中学校へ進んだ僕とは違い、頭の良かった君は都内でも有数の中高一貫校に進学した。
中学に上がったばかりの頃は慣れない生活と寂しさもあって、君に手紙をよく書いた。君も律儀に返事を書いて送ってくれたが、1年が経った頃から返事は来なくなった。
勉強や部活で忙しいんだろうなと思いながら、時間だけが経っていった。しかし、返事が来なくなってから半年が過ぎようとする頃。君は数万人に1人にかかる難病にかかり、すでにもういなくなってしまったことを母づてから知った。
信じられない気持ちで何度も確かめてみたけど、もう君がいないことが唯一の答えだった。
初めて身近な人の死を経験した僕にとって、出会った頃から抱いていた憧れが手に届かない場所に行ってしまったこと、なによりもう二度と会えないことが悲しかった。
もしかしたら、まだその悲しみから完全には立ち直れていないのかもしれない。
15年近くの歳月が経ち、なぜか久しぶりに君の顔が思い浮かんだ。
カレンダーを見ると昨日は君の命日だった。
夜中、DVDの″Stand by Me″を引っ張り出す。
今は亡き少年時代のリヴァー・フェニックス、耳に残るベン・E・キングの歌声、どこか懐かしい風景。
「12歳の時に持った友人を、その後持ったことはない」
作中の台詞の意味を、やっと分かった気がした。
もしかしたら、頭のよかった君に笑われてしまうけど。
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