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春とブランコ〈うみいろノートNo.49〉
散り始めた桜の花びらは、通り過ぎるトラックの風によって僕の自転車のカゴに舞い込んだ。
初めて自転車の後ろに人を乗せた日。
スリムな君のはずなのに、あふれ出る緊張が本来の力さえも奪ってしまう。力みながらも懸命に沈む夕陽を背に坂道を駆け上る。
「コンビニ寄ろ?」
一足早く夏を迎えたような爽やかな声が、滴る汗を乾かしてくれた。
坂道の先に建つコンビニの前で自転車を停め、人工の明かりの中へ入る。スポーツウェアの僕たちを何種類ものアイスクリームが出迎える。結局同じアイスを買うことになったが、会計は強い希望で君が持ってくれた。
いつもとは違う時間帯に、隣り合うブランコに座りアイスを頬張った。
薄暗くなった公園。僕のテニスラケットケースと君のバドミントンラケットのケースが少し離れたベンチで並んでいる。点滅する街灯は、さっきまで働き詰めだった自転車に拍手を送るように光を当てる。
ほんの数十分前の部活終わり。疲れの残る体を動かして、僕は学校の駐輪場で自転車の鍵を探していた。
「ねえ。帰りなら、後ろ乗せてよ」
声をかけてきた君は同じクラスの隣の席だった。見た目は金髪で派手だったけど、時折見せてくれる優しい笑顔が好きだった。
授業中でも小声で冗談を言い合ったりして、後ろの席でペンを走らせる優等生に咳払いで注意されてしまったこともあった。
廊下に張り出されていた成績上位者を発表する紙に君の名前を見かけた時、普段とは違う一面を知ったような気がした。その時、なぜか君のそんな姿をもっと知りたいと思った。
何ともないような時間が、今では得がたい幸せだったように思う。
淡い君への思いに目を瞑り、あの時の僕はただ君の隣でブランコに揺れていた。
「今日はありがとね」
「後ろに乗せた甲斐があったよ」
「初めて人を自転車の後ろに乗せた」だなんて言ったら笑われてしまいそうだから、僕は右手に持っているアイスを強調させていたずらに笑いかける。
「そんなに人の金で食うアイスが嬉しいか!」と君はツッコむ。
昼間の教室と変わらない君が、夜を彩る桜みたいに花笑んでいる。そうして君と僕は絶えず、不規則な世間の流れと同じように、それぞれのブランコを揺らし続ける。
18の春の出来事。
ふと思い出す、ちっぽけだけどかけがえのない、僕の人生のワンシーン。
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