“普通”じゃない
独特なリズムを刻むBittersweet Sambaとともに幕を開けた往年のラジオ番組は、いつだって僕たちリスナーの心を離さなかった。
50年以上の歴史がある「オールナイトニッポン」でも個人的に思い入れがあるのが、お笑いコンビ・オードリーがパーソナリティを務める土曜1時~3時の2時間だ。
初めて聴いたのは寝苦しくて眠れない真夜中の日だった。ふと手にしたスマートフォンからラジオが流れると、次第に心地よい感覚が胸のうちに広がっていく。
それからというもの、土曜の深夜ラジオは僕にとって日常生活で乱れた心を整えてくれる貴重な時間になっている。
「オードリーのオールナイトニッポン」の魅力を語ることは時間のかかる作業だが、ひどく簡潔に言ってしまえば、“好対照なオードリーの2人が織りなすテンポのいいトーク”に尽きる。
中学からの同級生でもある2人は気心知れた仲であり、彼らのトークを聴いているだけで童心に返った気分になる。とともに、普段はテレビでしか見れない芸人の知られざる生活を聴けることも楽しい。表舞台では笑顔を振り撒いていても、裏では歯を食いしばって生きている。何気ないトークの中に、そんな人間ドラマを垣間見ることもあるのだ。
10年以上ラジオが続いているからか、2人の内面が変化しているのもまた面白い。
人見知りがひどかった彼も結婚し、いつしか人に心を打ち明かす術を身につけていた。そんな彼の相方も、漫才時に見せるキャラクターの殻を破り、ラジオでは1児の父親として子煩悩な顔を見せてくれる。
彼らに会ったことはないけれど、不思議と愛着が湧いてくると、どこか遠い知り合いの話を聴いているような感覚になるのもラジオの魅力なのかもしれない。
「オールナイトニッポン」にはオードリーのほかにも多様なパーソナリティが活躍しているが、そのうちの1人が星野源だ。
そんな星野のラジオにオードリーの若林が出演したことがあったが、その回は今でも忘れられない。
長い苦節を経ての遅咲き、人見知りだった過去、心のうちを赤裸々に語ったエッセイが人気を博すなど共通点の多い2人のトークは、いつまでも聴いていられるほど心に浸透していく。こんなにもお互いが心地よく喋れて幸せそうだな、なんて少し嫉妬めいたものさえ感じるほどに。
その中で特に印象に残っているトークは「普通って何?」だ。
夜中にバスケのスリーポイントシュートの練習をすることを周りの芸人たちに「普通じゃないよ」と言われることに疑問を持っている若林に、強い共感を覚える星野。「シュートが入った時のシャポッ!っていうのが気持ちいいから」とまっすぐに話す姿には、自然と「普通じゃない」を跳ね返す熱さえ帯びている。
周りの同調圧力に屈せず、それぞれが掲げた夢へ向かって邁進してきた2人。だからこそ、移り変わりが激しい業界でも唯一無二の個性を放ちながら、今なお前へ進んでいる。2人が秘めている芯の強さはラジオ越しからもひしひしと伝わってくるのだ。
あっという間に終わってしまったトークの後には、2人のコラボ楽曲としてPop Virusを披露。
“普通”じゃない彼らの活躍は、これからどんな放物線を描くのか。楽しみで仕方ない。
皆さんから大事な大事なサポートをいただけた日にゃ、夜通し踊り狂ってしまいます🕺(冗談です。大切に文筆業に活かしたいと思います)