HIPHOPは歌えない
のらりくらりと生きてきたけれど、時折何の予告もなく打ちひしがれる夜がやってくる。
何かに突出した人間でもないから、余計にちっぽけな誇りだけを掲げて、ただひたすらに毎日を生きている。
人並みの人生と割り切って、たまの休みには友と酒を飲み、仕事の愚痴を吐き昔話に花を咲かせる。
いつしか強烈な憧れを抱くこともなくなってしまった。
次々に押し寄せてくる日々を必死に繰り返して、ふと自分はどこで息をしていいのか分からなくなったり。そうやって歳を重ねて、いつか後悔しても遅いと頭では理解しているつもりだった。
そんな生活の中でも、思いがけない言葉や表現に心動かされることがある。
もっと若かった頃には感じなかった哀愁に、どうしようもなく心を鷲掴みにされる。
街灯が照らす夜の道をひた走るタクシー。
普段あまり乗らないせいか、言葉のない慣れない空間を小躍りするかのように、有線で流れてきた彼の歌が聴こえてくる。気づいたら目的のないスマートフォンいじりをやめて聴き入っていた。
無垢な声がやけに自分の奥底に溶け込んでいく。血の通った温度が全身を駆け巡る。彼は飾り気のない言葉を陽気に歌っているように見えて、どこか切なさを抱えているように思えた。
車を降りれば澄んだ空気が肌を撫でる。気怠かった体は少し軽くなっていた。
正体の見えないものと日々闘って、たとえ疲れてしまっても、また明日に向かって歩き出そう。エナジードリンクで元気を出す時よりも自然に、彼の歌は優しく背中を押してくれる。
皆さんから大事な大事なサポートをいただけた日にゃ、夜通し踊り狂ってしまいます🕺(冗談です。大切に文筆業に活かしたいと思います)