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人生は要約できない
世の中、なにかと「要約」されがちだ。
細々ではあるが僕が活動するこのWeb上でも、要約チャンネルやまとめサイトといったコンテンツが数多く登場し、解読に時間のかかるものさえもポイントだけ押さえることが可能だ。忙しい現代人の助けになっている「要約」はある種、人類の偉大な発明といってもいいかもしれない。
しかし、それが誰かの人生となるとどうだろう。
世界で活躍するスーパースターや慣れ親しんだ街の新しい首長、はたまた最近出会った知人や恋人の人生。彼等が話題に上がるたび、または誰かに自己紹介する機会を得た際、僕等はどのようにしてそれぞれの人生を評したり他人に自分のことを語るだろうか。
きっと、苦しい経験よりも華やかな事柄にフォーカスするだろう。
そして、きっとそれが正しい「要約」だ。恐らく人というものは元来、平凡でつまらない話よりも好奇心を掻き立てられるような体験談を好むものだから。
でも、どうだろう。今になっては記憶から零れ落ちていった日々も、その人を形成する一部。
それに大人になるにつれ、人生にはビターな出来事も増えていく。それでも決して投げ出すことなく健気に生きていく人の姿に、僕はどうしようもなく心惹かれてしまう。
「人ってのは毎日毎日、必死に生きてるわけだ。つまらない仕事をしたり、誰かと言い合いしたり。そういう取るに足りない出来事の積み重ねで、生活が、人生が、出来上がってる。だろ。ただな、もしそいつの一生を要約するとしたら、そういった日々の変わらない日常は省かれる。結婚だとか離婚だとか、出産だとか転職だとか、そういったトピックは残るにしても、日々の生活は削られる。地味でくだらないからだ。でもって、『だれそれ氏はこれこれこういった人生を送った』なんて要約される。でもな、本当にそいつにとって大事なものは、要約して消えた日々の出来事だよ。それこそが人生ってわけだ。つまり」
「人生は要約できない?」
「ザッツライト」
人生は本のように好きにページを飛ばせるわけじゃない。ましてや、今までの人生を一変させるような分岐点ばかり味わえるわけじゃない。平々凡々な日々こそが、自らの生き方そのものを形作っていく。
その真実に気づけたことで、変わり映えしない毎日が続いても「もう少し頑張ってみるか」と奮起できることが増えた。僕にとってこの台詞は小説の一部分としての役割を越えて、格言ともいえる領域に足を踏み入れている。
伊坂幸太郎が書く台詞は、ふとした瞬間に心を軽やかにしてくれる。
たとえ綺麗事では済まない、残酷な時間を過ごすことになっても「前を向け」と励ましてくれる。
地味でくだらない部分にこそ、その人の生き方が滲み出る。
苦しい時も「誰かに要約されてたまるか!」という思いで、自分なりの生き方を積み重ねていきたいものだ。
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