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有線〈うみいろノートNo.26〉
去年の12月。賑やかな声がタクシーのドアを挟んで耳まで届く。
大学時代、同じサークルだった女友達の結婚式の帰り。一緒に式に参加した男友達が飲みすぎた様子でふらつく頭を押さえながら同じタクシーに乗り込んできた。
お互い式場で喋れることを思う存分喋ってしまった。無音の時間が車内に流れる。タクシーの外では近くを走る車のタイヤ音と、東京を象徴しているかのような無数の人口灯がちかちか光っていた。
友人は目を瞑っていて、酔いを醒まそうとしているように見えた。僕は寂しい車内に声が欲しいなと思うものの、自分も思ったより酔っていることに気づいた。僕は運転手さんに世間話の相手ではなく、ラジオを点けてもらえるか頼んでみた。
カチッ。ONになった向こう側からは陽気なラジオDJ。薄暗い車内に似つかない声のトーン。
変わった、というか変わっていて当たり前のラジオネームを名乗るリスナーのリクエスト曲を聞いて、最近よく聞くバンドだなと思うものの、歌声はまともに聴いたことがなかった。
有線で流れてくる歌はいつも唐突だ。
だからこそ、胸に焼きつくほど心に残り続けるものもある。
グッバイ
君の運命のヒトは僕じゃない
辛いけど否めない でも離れ難いのさ
その髪に触れただけで 痛いや いやでも
甘いな いやいや
グッバイ
それじゃ僕にとって君は何?
答えは分からない 分かりたくもないのさ
たったひとつ確かなことがあるとするのならば
「君は綺麗だ」
曲が終わる頃、うっすら目を瞑ったままの友人がぼそっとつぶやいた。
「俺、好きだったんだよな」
思わず「何が?」と言いかけそうになったが、直前で意味が分かり言葉を飲み込む。
少しして「そっか」とだけ言って、また東京の街をぼんやりと眺める。
東京の夜。片思いの静かな終わりは、僕の心にもこうして焼きついている。
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