「看護必要度を使って多職種協働にチャレンジしよう」の編集を終えて
:看護必要度のエビデンスを提示した本―編集者への聞き書き(カイ書林)
Q1:本書には、特集論文「看護必要度を基本から学ぶ」が2論文、「看護必要度を使って多職種協働にチャレンジしよう」が3論文、そして「看護必要度を用いた多職種連携のために」が6論文の合計11論文が掲載されました。本書で取られた論文重視の編集方針についてのお考えをお聞かせください。
今回の特集論文は、現場で行っていることを伝えるために、事例からではなく、エビデンスをお示ししました。これまでのコンソーシアムでは、どちらかというとケアの方法や、その具体的なやりやすさといった現場の知恵のようなことを取り上げることが多かったですね。
それは、とても大事なことですが、今回のテーマとなった看護必要度は、看護師以外の方々には、ほとんど知られていませんでしたので、これを利用することで、どのように役に立つかという、いわばエビデンスを示すことを優先しました。このために、すでに現場で看護必要度を利用して、患者の治療や看護、ケアに有益であるという根拠があることを知っている方々に著者になっていただきました。
また、なるべく多くの専門職の方々に登場していただき、それぞれの支援場面で看護必要度を用いた実例を基に、エビデンスを示していただきました。論文形式で書いていただき、これは、エビデンスを明確にするという目的には、合っていたのではないかと思っています。
Q2:本書は看護必要度を理解するためのルールやロールを提起されただけではなく、多職種協働を視野に収めた先駆的な論考が収められており、日常活動に有用なプラクティカルな内容となりました。多くの読者の皆さまに、とくに、こういう点を役立ててほしいということを教えてください。
本書の読者は、医師をはじめ、看護師、保健師、薬剤師、管理栄養士、作業療法士、理学療法士など多職種の方々がいらっしゃいます。この本に掲載された看護必要度の利用の具体例も、看護師だけでなく、医師、薬剤師、管理栄養士と多様な職種の方々によって書かれたものです。
看護師の方々にとっても、こういう使い方があるのかという新たな発見があると思いますが、他の職種の方々にとっても、こういった役立つツールがあることは、驚きにつながるのではないでしょうか?
ぜひ、多くの職種の方々に、これらの内容を紹介していただけるとよいですね。例えば、看護師と管理栄養士が連携して食支援をしたという例や、看護師と薬剤師が連携した例、また医師と看護師や多職種が連携した例など、具体的な方法が示されています。これは、今、現場ですすめられている働き方改革の進展に必要となる多職種協働に利用できるのではないかと思います。
また、看護必要度のデータは、すでに病院内に存在します。しかし、これを地域で利用するという発想は、あまりないようです。本書でも訪問看護ステーションでの看護必要度の利用を示してくれた松原さんが書かれているように、退院する際に、看護必要度のデータを地域の医療機関や介護保険に関する事業所などに引き継ぐことが、患者さんにとってたいへん役に立つことがわかります。そのような内容を看護師の方々が、多職種で共有していただけるとよいと考えています。
編集部:「地域連携室と訪問看護ステーションのやり取りに看護必要度の情報を補足する」という図は、大変わかりやすく、理解を助けますね。
そうですね。ここからは、院内の多職種連携だけでなく、院外の多職種連携の両方を考えていることがわかります。本書でも、加古川市で看護必要度を使った医療情報の連携ができないかという試みを田中さんが書いてくれました。院外も視野に入れた看護必要度の具体的利用について言及した書籍はこれまで、ほとんどありませんので、面白いと思います。
Q3:看護必要度を使った多職種協働への長い道のりは今後も続きますが、本書に収められた実践報告は先駆的ですが、多職種の皆さまの院内外の研修に役立つと思います。事例検討を積み重ね、今後ともオンラインでの多職種協働のための研修会や学習会が期待されますが抱負をお聞かせください。
多職種の協働は、「多対多」のシステムを必要とします。「多」には、多職種という意味もあるし、多機関という意味もあります。協働は、多対多の関係をシステムで機能させることが求められます。
従来の医療や看護は、1対1が想定されています。今日の協働は、一人の患者であっても、多人数、多職種の方が協働して、治療や看護、リハビリテーション、介護、生活支援と関わっていることが前提とされます。医療機関の中でも、地域でも、これらの多人数、多職種の人たちが、患者に提供した実際の利用行為やケアを、より簡易に効率的に伝達する方法が求められています。現状では、この情報伝達のツールとして、看護必要度は実効性が高いのではないかと考えています。医療や介護分野でケアに携わる多くの方々に、このことをお伝えできればと思っています。
これまでは看護必要度の研修の対象は、看護師でした。しかし、今回のジェネラリスト教育コンソーシアムは多職種で行うことができました。今後は、多職種が一緒に学べる場を創る努力をしたいと思います。
医学や看護、保健、福祉、介護といった領域や、職種をこえた研修を行っていくことが必要だと強く感じています。残念ながら、現場には、まだ、そういう取り組みが不足しています。看護必要度を多くの職種が理解することで、新たな医療や、看護、介護のあり方がみえてくるのではないかと考えています。
編集部:私たちもそのような抱負にこたえられるよう、さらにチャレンジしていきたいと思います。ありがとうございました。