カイ書林 Webマガ Vol 13 No5

このメルマガおよびWebマガは、弊社がお世話になっている先生方に毎月配信します。毎月「全国ジェネラリスト・リポート」と「マンスリー・ジャーナルクラブ」を掲載しています。

【好評発売中】

1 筒井孝子著:必携 入門看護必要度

2 筒井孝子著:ポケット版 看護必要度

3 鎌田一宏・東 光久編集:再生地域医療in Fukushima(ジェネラリスト教育コンソーシアム vol. 16)

4 東 光久編集:「患者力」を引き出すスキル・ツールキット(日常診療ツールキットシリーズ③)

5 金子惇・朴大昊監訳「医療の不確実性をマッピングする」

6 島田長人編集:急性腹症チャレンジケース―自己学習に役立つ18症例(日本の高価値医療シリーズ⑦)

7 石丸裕康・木村琢磨編集:ケア移行と統合の可能性を探る(ジェネラリスト教育コンソーシアム vol. 15)

8 樫尾明彦・長瀬眞彦:問診から選べる漢方薬ツールキット(日常診療ツールキットシリーズ②)

9 徳田安春:新型コロナウイルス対策を診断する

10 沖山 翔・梶 有貴編集:ジェネラリスト× AI 来たる時代への備え(「ジェネラリスト教育コンソーシアム」vol.14)


■ジェネラリスト教育コンソーシアムのご案内

・第19回:「チーム医療を本音で語ろう」(2022年夏、世話人:森川 暢、大浦 誠各先生)
近日詳細をご案内します。
・Mook版ジェネラリスト教育コンソーシアム Vol.17 ジェネラリスト×気候変動は、現在制作中です。本年7月に刊行します。ご期待ください。
* Mook版ジェネラリスト教育コンソーシアムは、科学技術振興機構(JST)の文献データベース(「JDreamIII」、「J-GLOBAL」等)および「医中誌」に収録されています。


■全国ジェネラリストリポート

Case Reportを書く!~壁の向こう側を夢見て~

東近江総合医療センター 総合内科 山田安希

滋賀県の田園の中にある東近江総合医療センターで総合内科医師(後期研修医)として勤務しております。このような寄稿の機会をいただき誠にありがとうございます。

さて、新型コロナウィルスの流行下で、コロナ対応に追われ、経験できる症例・手技の幅が減ったことは否めません。その煽りはわたしたち後期研修医だけでなく、初期研修医・学生にも及んでいます。しかし、嘆いていても仕方ありません。

私の指導医の先生はたくさんのCase Reportを発表しておられます。私が先生を尊敬する理由は、臨床能力・診断能力の高さもさることながら、そのアウトプット力の高さです。しかし、「とりあえず書いてみなはれ」と言われ、初めて英文で書いたCase Reportは投稿すら許されず、ボツ。けど、「私も先生のようにCase Reportを世に出したい!!!」と初期研修医の頃から(想いだけは)誰よりも強く抱いていたつもりです。

私が大事にしている言葉は、“The brick walls are there for a reason. The brick walls are not there to keep us out. The brick walls are there to give us the chance to show how badly we want something.” — Randy Pausch. です。人生で一番つらかったときに親友がくれた言葉です。歯を食いしばるときに、思い返します。

いつも、何かをしようとするとき、そこには私なんぞには永遠に越えることができない壁があるように思います。今回も、まだ見ぬ壁の向こう側—Case Reportを世に出せる日—なんて永遠にこないんじゃないかと思っていましたが、今回、Clinical Pictureで短いものですが、Acceptのメールをいただきました。

新型コロナウィルスの流行で、以前と比較すると経験不足や現場の疲弊感は否めません。しかし、できることをこつこつと、壁の向こう側を夢見続けて、師匠のようにたくさん発信できる医師を目指して、これからも精進していきたいと思います。


■マンスリー・ジャーナルクラブ

医療従事者に内在する無意識のバイアスと差別:系統的レビュー


大阪医科薬科大学医学研究支援センター医療統計室 講師 
南丹市国民健康保険美山林健センター診療所 所長 西岡大輔

論文情報
FitzGerald, C., Hurst, S. Implicit bias in healthcare professionals: a systematic review. BMC Med Ethics 18, 19 (2017). https://doi.org/10.1186/s12910-017-0179-8

内容の要旨
【背景】医療機関はすでに社会的に不利な状況にある患者を対象としており、患者をより不利な状況へと貶める“corrosive disadvantage”が発生しうる。そのような場で働く医療従事者には無意識の差別”Implicit bias”が内在する。本研究では無意識の差別の程度や対象、診療行為への影響を明らかにすることを目的とした。

【方法】系統的レビュー。種々のデータベース等から42編の論文を抽出して、無意識の差別の対象となる患者像やそのような患者への医療ケアの質をレビューした。

【結果】17編の論文がImplicit Association Test尺度を用いて、医療従事者の無意識の差別を評価していた。35編の論文が医療従事者における無意識の差別の存在を明確にした。無意識の差別の程度とケアの質との間に負の相関があった。問題となりやすい属性には、人種や民族、性別、社会経済的地位、年齢、精神疾患、体重、AIDS患者、麻薬使用者、障害、社会環境などがあった。

【結論】医療従事者には、ケアの質に影響を及ぼす無意識の差別が内在しており、医療ケアの格差をもたらす。無意識の差別への対応が求められる。

コメント:
本研究と関連して、医療従事者には、ある困難を抱えやすい人々やある属性をもつ人々に対するスティグマの発生源になることも知られていました。スティグマは人々の自己肯定感や社会活動を減少させるきっかけを作り、医療へのアクセスを妨げてしまうため、もしそれが私たちによって生まれるのであれば、私たち医療従事者は社会的な背景要因による健康格差に寄与してしまっているかもしれません。私たちに内在している無意識の差別に自覚的になり、目の前の人の理解に努めることが重要だと改めて感じました。


■カイ書林図書館

筒井孝子先生著:ナーシング・トランスフォーメーション(日本ヘルスケアテクノ株式会社、2022年3月刊行)

本書は,看護必要度を使って院内の多職種協働をすすめるマネジメント力の向上を目指している方々のリスキリング(職業能力の再開発・再教育)のために筒井先生がまとめたものです.

すでに指導者研修を修了し,自らの病院の中で後輩の指導や,その評価結果に対する検証を続けているリーダーナース,主任,看護師長等の方々,いわばミドルマネジャーが主な読者対象です.

日本では,未だ多職種協働を実現している病院は多くはありませんし,しかもこの協働に際して看護必要度を活用している病院もほとんどありませんが,その試みは確かに始まっており,看護必要度のデータを用いて看護師の適正配置を検討しようとする病院が生まれ始めています.そして,これは,病棟内の日々の看護の質の向上だけでなく,地域との連携スキルの向上につながることがわかっています.

本書によって,一人でも多くの専門職の方々が看護必要度を理解し,臨床現場での活動に応用することでリスキリングを達成してほしいと著者は願っています.

本書は次のような構成になっています。

第1 部 理論編

  1 章 看護必要度の開発とこれまでの経緯

  2 章 日本の入院患者の実態を明らかにした 「看護必要度」

 第2 部 演習編

  3 章 多職種協働のための前提要件

  4 章 多職種協働の実際

  5 章 患者中心アプローチを実現するための多職種協働

 第3 部 展開編

  6 章 多職種協働を実現するために

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