がん〜原発巣はどこ?〜by病理
60歳、男性。
1ヶ月前から全身倦怠感と咳嗽が現れたため近医を受診したところ、癌のため大学病院に紹介された。
画像等で全身を精査したところ、全身に転移があったが、胃に存在する腫瘍が大きさ6㎝を超えており、胃癌と診断。
胃癌に対して化学療法を行われたが、腫瘍の縮小せず、効いた様子ではなかった。その後、呼吸困難が現れ、1ヶ月後に亡くなった。
病理解剖が行われると、癌は全身に転移しており、以下の部位で腫瘍が見られた。
・胃:大きな腫瘍が一つ
・肝臓:6つ以上の大きめな腫瘍
・腹膜播種:大豆大の腫瘍がいくつか見られた
・肺(左下葉):やや大きな腫瘍が一つ
・横隔膜は肺と胃に癒着し、一部腫瘍がみられた。
・胃周囲リンパ節:多数
・肺門部リンパ節:多数
結果、肺が原発であるとわかったが、判断に至った理由は以下の通り。
①当初、原発と思われた胃癌であるが、胃の中に顔を出していたのは一部であり、胃の外の腫瘍の方が大きかった。
②胃、肝、リンパ節などで見られた腫瘍細胞の組織所見は、未分化癌で線維染色等行った結果、同じ腫瘍細胞であることがわかった。
③肺の腫瘍細胞は、高分化の扁平上皮癌と未分化癌が併存していた。
考え方として、癌は高分化の状態では浸潤はしづらい。浸潤、転移していくうちに未分化へと変性していくことはあっても、高分化に戻ることはまれである。
このことから原発巣は肺であり、その中で未分化の腫瘍細胞が発生し、横隔膜へ浸潤、貫通して胃へ浸潤、その後、血流に乗って肝臓へ転移したのではないかと考えられる。
通常、胃→肝→肺の順で血流で転移するが、今回は、物理的に貫通して行ったため、肺→胃へと浸潤が起こったものと考えられた。
癌の転移は、転移と直接浸潤とがあるので、いろんな可能性を考えるべきである。
*転移性の癌を見分ける際、同じ程度の大きさの癌が2つ以上あるという区別の仕方が有用である。
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