バーチャイルド
「バーチャルシニア」とは、高齢者の体験をすることである。障害者体験、妊婦体験も聞いたことがある。いずれも、装具を着けたりして、「弱者」の体験をするものだ。
だが、それらには含まれていない「弱者」が1つある。「子ども」である。
不幸にして、高齢になる前に死んでしまう人もいるし、幸運にも、障害をもたずに一生を送る人もいる。男性はもちろん、女性でも妊娠しない人もいる。
だが、子どもでなかったことのある人はいない。しかし、1度は子どもであったからといって、覚えているとは限らない。
そこで、「子ども体験」をすることで、子どものことが、少しはわかるのではないか。
例えば、腰のあたりにカメラを付けて、それを見ながら街を歩いてみてはどうか。その人の身長にもよるが、2、3歳の子の目線がわかるのではないか。建物や、道行く人が、どんなに大きく見えることだろうか。タバコの火が、どんなに目の前に迫って来るだろうか。階段が、どんなに高く、恐く映るだろうか。そして、地面の雑草や、虫や水たまりは、きっと、ずっと身近なものになるだろう。
あるいは、「子ども体験」のできる施設を作ってはどうか。「はりぼて」でもいいから、大きな家具や建物の模型を作り、そこを歩けるようにする。縦・横・高さを2倍にすれば、身長が80cmくらいの1、2歳の子の気分になれるだろう。1.5倍なら、1mぐらいの4、5歳児か。そして、まずは学校や保育園・幼稚園の先生に体験してもらう。次に、子どもの親や、妊婦とその夫にも体験させる。ゆくゆくは、世の中のすべての大人が体験するといい。
また、家具や建物だけでなく、身長が2~3mの人形も作る。できれば、ロボットのように、声を出せたり、動いたりするともっといい。そんな人形たちに取り囲まれたら、どんな気持ちがするだろうか。抱き上げられたら、うれしいだろうか。恐いだろうか。怒られたら、さぞかし恐かろう。でも、子どもは、いつもそんな思いをしているのだ。
子どもがいなかったり、仕事でも縁のない人でも、体験してみると、自分が子どもの頃、どんなふうに世の中を見ていたのかが、少しはわかるのではないか。そんな世界を、よく生き延びてきたものだ、と思うかもしれない。
誰か、そういう施設を作ってはくれないだろうか。厚生労働省あたりが予算をつけてくれればいいけど、まあ無理か。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?