白トラ弐15 テレパシーによる意思疎通
京都移住後、催眠術スクールで富士山に登った。富士山に登る前の半年間、白へびはこの山に足しげなく通いトレーニングしていたこともあり、登り慣れていた。
登り慣れるということは、もはや下山中に特別に疲れるということもない。要するに、『疲れてたから勘違いした』ということではないと主張したいのだ。
あと200~300mも進めば神社境内(じんじゃけいだい)に差し掛かりそうだという時、しばらく続く細い登山道の足元でいきなり自分以外の何かが立てる音がした。
『ガサガサッ』
下山中、細い山道を下り方面に向かって右が山側、左が崖側。枯れ葉を押しやるやや荒い物音は今着地した右足すぐそばで鳴った。
右足が着地した状態のまま止まって右足元をよ~く見ると、葉っぱの陰に『へび』が見えた。緑色っぽい普通のへびだ。結構大きく成長したへびだ。
自ら白へびと名乗っておきながら、いざ野生のへびが視界に入ると「ぅわぁ!へびがおるぅ!!」とつい声を上げた。
*
その時周りには誰もいない。
‥とっさに、目の前のへびが山側のしげみから崖側の藪(やぶ)にただ移動したいだけなのだと分かった。
へびに、身振り手振りを添えてこう言った。
「どうぞお先に」
するとへびはスルスルと右足すぐのしげみから出て崖側の藪に降りて行った。
それはまるで、やや見通しの悪い交差点でサラリーマンと出会いがしらに
「どうぞお先に」
「どうもすみません」
と言って、道を譲って差し上げる様子そのものである。
人間同士の身振りと言葉のやり取りによる意思疎通の速度そのままだった。
それが人間とへびとの間で成立したのだ。
「遂にオレもここまで(この領域まで)来たかぁ!」
と、歓喜の声を上げてしまった。
人間(自分)と対人間意外でのテレパシックな意思疎通が成立した経験はこのエピソード以外にも数回経験しているが、この時ほど対サラリーマンと出会い頭に道を譲る感覚と近く感じたケースは無かったのでお話してみた。
つづく
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