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創造性の砂場
先日僕たちが運営するデザインのグループ展COMPOSITIONが終わりました。
COMPOSITIONとは僕がディレクションを務める、関西若手デザイナーが自己研鑽することを目的としたデザインの展示会です。一部重複する部分はありますが、以前書いた記事もありますので宜しければ。
最近COMPOSITIONに関係する取材依頼が増えてきたので少し振り返ってみようと思う。どの辺から話すべきなのかはさておき、忘備録的に書いてみます。
そもそもなぜCOMPOSITIONをやっているのか。どんなつながりで今に至るのか。この2つはよくある質問です。
Tokkuri and Choko exhibition(2015)
1番最初のきっかけは2015年くらいだったかと思いますが、当時の大阪のGWは通天閣擁する新世界一帯でアートなイベントをやろう。ということでツムテンカクというイベント開催されていました。
そのディレクターの1人の山田敬宏さんから「プロダクトデザインのイベントが無いので企画して欲しい」と言われ、日本酒の徳利とお猪口をプロダクトデザイナーがデザインをし、さらに日本酒まで選んでその酒器で呑んでもらうというイベントを企画開催しました。
Tokkuri and Choko exhibition
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2015/5/22-24 @スパワールド入口前広場内倉庫
参加デザイナー
立石雅英/小池 和也/清水 隆之/南 政宏/南 大成/村田 匡基/山田 敬宏/江口海里
まさかの倉庫での開催でアングラな雰囲気がありました。イベント時代はすごく面白かったし、反響も良かったですが全体をまとめるのがなかなか難しかったり、勝手な行動を取る人にモヤモヤしたり、やると言ったのにやらない人が出たりと、今では気持ちひとつで簡単に済ませられるようなことに僕個人が消耗して、デザインイベントをやるのって大変なんだなぁと思うようになりました。同世代くらいの面々ですが、みんなまだまだ若かったのもある気がしますが、そうしたもやもやから続きは開催されませんでした。
Viva la Vino(2015)
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大阪ではその頃machi decor(マチデコール)というイベントが開催されており、秋は大阪の街で様々な展示が行われる時代でもありました。その頃マチデコールに近しい人から「江口君、何かやってくれない?」と声をかけてもらったのてでまた何か新しいことをやりたいなと思い、当時のマチデコのディレクターに相談すると西区にあるタカムラワインアンドコーヒーロースターズというワインとコーヒーのお店を紹介していただき、その素敵な2階インテリアにあるキッチンの前にワインにまつわる展示会「Viva la Vino」を開催しました。
Viva la Vino
2015/10/10–18 @TAKAMURA WINE&COFFEE ROASTERS
参加デザイナー
FRANCESCO FUSILLO(ITALY)/GINA HSU(TAIWAN)/SALLY LIN(TAIWAN)/KENYON YEH(TAIWAN)/GreenRoom Ideas Cooperation(TAIWAN)/立石雅英/伊藤彰/金岡千賀子/南大成/村田匡基/ENYA HOU(KAIRI EGUCHI DESIGN)/江口海里
それぞれがワインにまつわる作品を作り展示、場合によっては販売をするなどのイベントでした。2015年といえば僕たちがサローネサテリテに2度目の出展を果たした年で、こんなこと大阪でもやれたらいいなとミラノでたくさんの展示を見て悶々としていた時期でした。
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その年に知り合ったイタリアの盟友Francescoや、台湾のSallyなど今でもずっとつながり続けている海外のデザイナーが半分くらいを占める国際的なイベントでした。個人的にはかなり良いイベントになったように思います。
そしてこのイベントがある方の目に留まり更なる広がりを見せます。
COMPOSITION w/FLOS(2016)
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イタリアの照明メーカーFLOSの西日本のエリアマネージャーでイベントを企画運営する権限がある方の目にVLVが留まり、来年一緒にやりませんか?という話に。
元々は同じ場所でFLOSの展示の内容そのものを僕が考える話でしたが、話が進むにつれ結果イタリアのFLOSのデザイナーがそれを担当することになり宙に浮いた僕は、「同じ場所で違うことをさせてほしい」と話をし、了承を経て結果スプリットイベントとしてのCOMPOSITIONが誕生しました。当初は一回きりでもいいかなと思ったりしていました。
COMPOSITION 01 [TSUGAI]
FRANCESCO FUSILLO(ITALY)/WESLEY KUO(TAIWAN)/RAÚL LAURÍ(SPAIN)/YANG YIDE(TAIWAN)/立石雅英/北澤藍/南大成/村田匡基/三上嘉啓/HOU ENYA(KAIRI EGUCHI DESIGN)/江口海里
2016/10/8–15 @TAKAMURA WINE&COFFEE ROASTERS
テーマはつがい。ペア、2つで1つになるもの。として開催。とてもユニークなものがたくさん誕生しました。盟友Francescoと、2012年のサローネで最初に友達になったスペインのRaulが参加してくれました。ラウールは2012年にサローネサテリテアワードを受賞し、それで起業したデザイナーです。
FLOS効果もあり、何人の方が来たのか正確な情報がありません。レセプションパーティはすごくたくさんの方が来ていた気がします。味をしめた僕は次年度にまたCOMPOSITIONをやろうと画策し始めます。
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COMPOSITION w/DIY FACTORY OSAKA (2017)
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その頃の僕は光造形式の3Dプリンターを購入し、デジタルファブリケーションのすごさを目の当たりにしていました。同時にMAKERSという本がヒットしていた頃で、そうした世界(メーカーズブーム)がすぐそこに来ると思っていました。実際には僕の予想よりもだいぶあとにそれは訪れることになります。
僕はデジタルファブリケーションをテーマにしてイベントできないかなと思い、テーマをJOINTにし、「3Dプリントでジョイントをデザインし、ホームセンターで買える材料で製品を完成させなさい」というDIY的なイベントを企てました。
COMPOSITION 02 [JOINT]
参加デザイナー
吉田真也/南大成/南政宏/北井沙希/村田匡基/三上嘉啓/秋山慶太/橋本崇秀/赤藤晃大/HOU ENYA(KAIRI EGUCHI DESIGN)/KOO JIN YANG(KAIRI EGUCHI DESIGN)
2017/10.7-15 @DIY FACTORY OSAKA
2017年はサローネで3ヶ所で展示があったり、秋には東京でEXPERIMENTAL CREATIONSという素材のデジタルの展示会に招待されたりとかなりバタバタしていた頃で、このJOINTに関する資料がほとんど残せていません。来場者もトークイベントもどのくらいの人が来たのかわからないですが、イベントはすごく刺激的なものになったように思います。そしてこのイベントから、僕は完全に運営にまわり、自分の作品を展示しなくなりました(作る余裕が無くなりました)。時期的に若手と自分で思えなくなったこともあったのかも知れません。
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またVLVと2回のCOMPOSITIONで毎回課題になったのが場所問題です。これはイベントを考える人はほとんどぶつかる壁です。ちょうど僕たちのチームはその頃正社員が3名、インターンが2名、バイトが1名くらいの大所帯になっており、30平米くらいに常にみちみちになった状態で仕事をしていました。その2つの課題を解決するために、引越しを決意します。
覚悟の引越しとPage Gallery(2018)
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2017年にサローネ3ヶ所展示をした時に、もう自分の作品としてサローネに参加するのは一旦卒業して、次はクライアントワークを展示できたらいいなと思うようになりました。そして引っ越したいなぁと毎日不動産物件を見ているとたまたま出た今の事務所。家賃は2.5倍、広さは3倍以上に。今思うと結構思い切ったなと思いましたがデザインのイベントをいつでも自由に開催できる、また場所をもつことの強さみたいなものが欲しかったこともあり、すぐに申し込んで引越しました。サローネに出展するよりもお金がかかってしまいましたが、このことがきっかけで大きくいろんなことが広がっていきました。
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独立10年を記念した10年の間にあった印象的な10個のプロダクトを言葉と共に展示する「3650日のことばとかたち展」を皮切りにサローネ報告会、ネグローニ生誕100周年記念イベント、トークショーなどを開催していました。意気揚々と海外進出なども目論んでいた頃に新型コロナによるパンデミックが起こり、同時にいくつかの契約が終わることもわかり、会社の経営に大きなダメージがあり、場所を手放すかどうかというところまで来ていました。実際には事務所を畳むことも考えていましたが、スタッフ藤原杏の尽力もありどうにか耐えている頃に面白い話が舞い込んできました。
NEW NORMAL NEW STANDARD(2020-2023)
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2017年に東京で開催されたEXPERIMENTAL CREATIONSの会場は、ワイヤーグリップで有名な荒川技研工業が表参道に新しく建てたショールーム兼ギャラリーであるTIERS GALLERY。パンデミック真っ只中の2020年にインテリアデザイナーの土井智喜さんが荒川技研のグリッパーを使ったパーテーションをデザインしたことで、「この企画は面白いから人数集めてイベントにしませんか?」と荒川真さんが土井さんに話し、数人の他の出展者と共に僕を招聘してくれました。僕はこれを大阪でもやりたいとお願いし、Page Galleryで NEW NORMAL NEW STANDARDが開催されました。そこに吉澤健太さんが来られ「僕もこういうのをやりたいと思っています」とお話があり、瞬間的に何かの縁だと思ったので「NEW NORMAL NEW STANDARDでの参加は難しいかも知れませんが、昔やってたCOMPOSITIONというイベントならやろうと思えばできますよ」とまた仲間探しからはじめたことから、COMPOSITION03-05に続いていくことになります。
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再始動 COMPOSITION 03-04(2022-2023)
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幸いなことにCOMPOSITIONは開催するたびに参加希望者が増え、どんどん規模が大きくなってきました。特に03(2022/05)の頃は、他にデザイナーが展示をするイベントが無くなっていたことも起因しているように思います。マチデコールがパンデミックで終わり、若手のデザインイベントSAIDO DESIGN PROJECTもありましたがそれも終わり、大阪はそこそこ大きな街ですが主だったデザインイベントがなく、それは今も少し引きずっているように思います。
COMPOSITIONは今の参加希望者を全員誘うと3部構成くらいにしないといけない規模になり、人選もどんどん難しくなってきました。運営のオペレーションも04以降は参加者にもお願いすることになり、みんなで手弁当で作り上げるイベントになりました。これは僕にとっては継続の可能性を高めることなのでよかったです。余計なアスペクトが減り、デザインの仕事や経営との両立が可能になりました。このことは素晴らしい展示会になったように思います。
COMPOSITION 05 OSAKA/TOKYO(2023)
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NEW NORMAL NEW STANDARD 心地よい備えのデザイン展の打ち上げくらいの頃だったか、荒川真さんとCOMPOSITIONの東京展の話になり、ぜひやりたいと申し出て開催することになりました。
大阪で熱く燻ってきた展示会COMPOSITIONが、東京でもトップレベルに素晴らしいギャラリーであるTIERS GALLERYで開催できること。これは上記の通り大阪でずっと活動を続けてきた僕には特別な意味がありました。改めて開催許可をくださり、協賛してくださった荒川技研工業に感謝申し上げます。
COMPOSITION 05のテーマは[FLOAT]。モビールを作る展示会です。これも荒川技研がバックアップしてくれるので繋がったテーマで、ワイヤーとグリッパーを使うことを条件にしていました。
今回も参加メンバーがすばらしいこともあり、多くのユニークピースが誕生しました。メキメキと壁がひび割れて破壊されていくのを感じていました。
COMPOSITION 05 [FLOAT]
参加デザイナー
DAEN(宇佐美菫、藤崎由渚ともに滋賀県立大学)/EN FURNITURE(黒川朋、辻川知樹)/PUBLIC SERVICE(大津寄信二、石上諒一)/KOKA(小野佑真、春江紗綾ともにKAIRI EGUCHI STUDIO)/東山桐子/吉澤健太/筒井喬之/塚本裕仁/江口海里
OSAKA 2023/7/1-9 @Page Gallery(KAIRI EGUCHI STUDIO 1F)
TOKYO 202314-18 @TIERS GALLERY(ARAKAWA GRIP 3F)
作品に関してそれぞれ僕が講評することはありません。全体の話として僕個人の考えでは作り込みやクオリティはもちろん大切だと思います。ただそれよりも作品がユニークであったりインプレッシブであったり、創造的であるかがとても大切だと考えています。冒頭のCOMPOSITIONを何のためにやっているかという問いに対する根本的な基礎は、鍛錬であり、研鑽です。そしてまずは外部的な評価よりも内省。または自らの中で反芻すること。そのきっかけを作り、展示してはじめて客観的なフィードバックをもらうことができる。当たり前のことではありますが、この姿勢はVLVの頃から脈々と受け継いできた部分はあるように思います。また昨今はカメラ技術の向上により、変な言い方をするとどんなものもある程度「良さげ」に見せることができるようになりました。ある意味危険だなと思う部分がありますが、クオリティを判断する場合、多くは画像であることが言えてしまいます。
創造性の砂場
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失敗の定義にもよりますが、クライアントワークでは当然失敗は許されません。しかし、失敗から学ぶことは特に経験が浅いデザイナーにとっては糧となると思います。その観点で言えば大いに失敗できる最高の環境もあってもいいなとも思いますし、展示までの長いプロセスの中で失敗し修正を繰り返すことは早い成長を促すように思います。それは基礎訓練のように若い時期に積み上げるものなのかなと思うわけです。結果としてクオリティに至っていなくても時期が来たら展示をしてもらうのはCOMPOSITIONの在り方を示すものだと思います。つまり、COMPOSITIONはゴールではなくそれ以外の創造的な活動の体幹トレーニングみたいなもので、クオリティという観点で僕がメンバーに何かを言うことはおそらく今後も無いかなと思います。その行為自体も終わりは無いとも言えます。
ただし、繰り返しますが創造的であるかはとても大切です。テーマは抽象的なものから変化して具象的に狭まってきています。同時に許される範囲も狭くなるわけですがその上で創造的に想像を超えるようなもの。それがきっとおもしろいってことかなと思います。そうしたことが常々生み出される砂場であってほしいなと思います。
それぞれの作品についてはCOMPOSITIONのウェブサイトをご覧ください。
COMPOSITION 06 今後について
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現在はテーマや参加デザイナーはほぼ白紙の状態ですが、次回COMPOSITIONは開催する方向です。時期としては来年の秋ごろかなと思います。05を大阪と東京で開催して考えることがあり、時間をかけて次の展開をイメージしたいなと思います。
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その頃にCOMPOSITIONから枝分かれして、また別の砂場みたいなものが生まれたら、さらにおもしろいなと思います。
そんなことを願いながら、また日々の仕事にフォーカスしていきたいと思います。