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僕にとってTRICERATOPSとは結局何だったのか:回想
2025年1月10日、LINE CUBE SHIBUYA-TRICERATOPSギターボーカル・和田唱の言葉を借りて言うのであれば渋谷公会堂にて、3人の男達は一旦の歩みを止めた。
1995年結成1997年メジャーデビュー、2025年活動休止。30年の活動の中で、日本中からその注目を集めた時間は余りにも少ない。
1999年発売のシングル、「GOING TO THE MOON」のヒットによりその知名度を上げるが、2010年代に入って以降近年その活躍に目覚ましいものがあるかと言われれば正直肯定し難いものがあった。
同世代でこのバンドを聴いている、と言う人には今まで数えても5人やそこらしか出会った事がない。それでも、この時代にそぐわないバンドへの「好き」を信じて疑わず去る1月10日の無期限活動休止ライブを観に行けたことは、個人的にも大きな人生の節目の1つだと自信を持って言えるのだ。
TRICERATOPSと僕の出会いは高校3年生に遡る。当時のバンドメンバーが「今ハマってるんだ」と貸してくれた音源。B面とシングルがそれぞれ10数曲入ったベスト盤だった。
(サブスク版にはB面は入っていないのはご愛嬌)
高校生の時の僕と言えば寝ても覚めてもMr.ChildrenとX JAPANの事ばかり。YOSHIKIが世界最高のドラマーだと疑わず、桜井和寿こそが最強のソングライターであると信じていた。(後者は今でも若干そう思っているけど。)
彼らは僕にとって初めての「会いに行けそうなロックスター」だった。
ミスチルはライブをやってもドームや武道館ばかり、X JAPANはライブはおろかアルバムすら当時20数年出ていない状況だったため、初めてこの2つよりもより身近に感じられつつ手の届かない存在・憧れこそがTRICERATOPSだったのだ。
彼らの魅力としてロック、とりわけ60〜80年代のクラシックロックへの造詣の深さがあった。彼らの育った音楽の所謂「リフもの」でしつこいくらいに曲中でそれを多用し、それでいてダンサブルなビートと時おり顔を覗かせるキャッチーでどこか切なさも孕むメロディと3人の重厚なハーモニー。
高校3年生で頭から爪先までどっぷり子供でもいられなくなった僕にとっては照れ隠しのように少しキザな歌詞も大好きだった。
「愛してる」「会いたいんだ〜」「前向いて進もう〜」とストリングスやシンセの音をバックに歌い上げるバンドより、自分の言葉を自分の意思で、表現でありのまま伝えているような気がしたのだ。そう言ったある種の小さな気高さもたまらなくグッと来た。
初めてライブを観に行ったのは進路も決まった2017年3月。六本木EX THEATERで行われた「DINOSAUR ROCK ‘N ROLL 7」。彼らを教えてくれた友達と初めて生演奏を体感した。
いつも聴いていたあの曲を目の前でやっている!
ワダショーが、ハヤシが、ヨシフミが生で観客を踊らせているのがこんなにカッコいいなんて!と衝撃を受けたのを覚えている。
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ゲストは平井堅、引く程歌上手かった。
TRICERATOPSを聴くようになってから、昔からカーステレオで聴いていたようなUS/UKロックにも良さを見出せるようになった。
お調子者で捻くれているけどどこか愛せるような可愛さを持った1人の男が世界をどう見ているのかを知る事が出来たし、そのエッセンスは自分にも確実に入っている。
僕が3ピースバンドを好きになりがちなのも確実に彼らの影響だ。
そして去る2025年1月10日。彼らの無期限活動休止前最後のライブにて、その勇姿をしかと目に耳に焼き付けた。
ダブルアンコールで渋谷公会堂を時間オーバーで出禁になるギリギリまで、彼らは音を鳴らしてくれた。
ライブは上述の六本木から実に約8年ぶりだったがその間も進化を続けてきた恐竜達は、ぶっとい屋台骨が見えるかのような演奏で僕たちを魅了した。
まるで青春時代が蘇ってくるような2時間弱だった。これを観れて本当に良かったと心から思えた。
僕にとってTRICERATOPSとは「愛読書」だった。その曲1つ1つが愛すべき短編小説だった。
色んな世界を知ってもたまにそのページを開き直し、そのビートとロックンロールは何と言っているのか見つめ直し消化出来る名言のようだった。
これからも時おりページ開いては、その物語が織りなす世界に自分の生活や理想を重ね合わせ折り合いをつけるんだろう。そこには音楽的な理論や技術を問うた事は今の今まで一度もない。
ただ、TRICERATOPSがTRICERATOPSであるだけで良かった。
彼らがいつの日か各々のやりたい事を終え、進化した姿でまた僕らの前に戻ってくる事を願いつつ今日は「Fly Away」を聴いて寝ることとする。