「どこで暮らす」<「どう暮らす」

前の記事で、車のリセールバリューがどうたら、などと書いた。
その流れで。

車以上に大きな買い物となる住宅、中でもマンションの購入場面ではリセールバリューさんが大変に喧しい。
そりゃ何かの事情で持ち家を手放すことになった時、少しでも高く売れればありがたいには違いないけどね。

戸建住宅とマンションについて、どっちが良いのかという議論は枚挙にいとまがないし、どこまでいってもひとつの結論にまとまるなんてことはないだろうけど、

・戸建住宅はマンションよりリセールが難しいけど、ライフステージの変化に合わせたリフォームが容易。間取り変更も増築も減築もできる。
・マンションでできるリフォームは着せ替え的なものがメインになり、間取り変更は制約が多くて増築や減築は無理。でも戸建住宅よりはリセールしやすいことが多い。

というあたりは先の長い話なので、イメージくらいはしてみるといいと思うよね。
もちろん立地という最重要ファクターは無視できないし、立地という点ではマンションのほうが有利なことが多いんだけど、だからといってその一点で判断できるものでもない。

誰が言い出したのか、「家は3軒建てると良い家になる」という説。
かつては自分自身も「そうか、家は3軒建てないと思い通りの良い家が建たないんだな」と漠然と思っていたけれど、それって家づくりの経験値が上がるからというよりも、

[ 怒涛の子育て期 ]
  暮らしの拡大期(20~40代)
[ 子供の手が離れて自分はこれまでと変わらず動ける期 ]
  拡大した暮らしの維持期(40~60代)
[ 自分も環境も、これまでほどアグレッシブに動かない高齢期 ]
  拡大した暮らしの縮小期(60~)

という感じの、おおよそ20年スパンのライフステージごとに家に求めるものが違うからって意味なんだろうなとこの頃わかってきた。
家を3軒建てなくても、その3期でステージに合った家に簡単に住み替えができればいいことなんだよなあ、と。
その都度家を建て替えることができる人は建てればいいけど、そういうわけにもいかない人のほうが圧倒的に多いのだし。

そう……「(買うなら)戸建住宅かマンションか」という問題と同じくらい「持ち家か賃貸か」という問題も存在する。
ステージごとに住み替えるなら賃貸、イニシャルコストもあまりかからないし転居も簡単。
でも、老後も引き続き家賃を払い続けることができるか、というようなことも考えないといけない。

「現役の間は賃貸に住んで、退職金で手頃な家を買えば良いのよ」という考え方もあるけれど、これについては、60代での引越しという結構高いハードルを越えられるかどうか。
「老木は植え替えるべからず」という言葉、私は人間にも当てはまると思っている。
引越しの作業が大変というだけの話ではなく、60歳を過ぎて新天地で根付いて暮らしていくことができるか、これまでのコミュニティと、これからのコミュニティ構築の問題。
これはコミュニティを自分が構築できるかという話だけじゃなくて、60歳を過ぎた新参者(と言っていいのかな)を既存のコミュニティがどう受け入れるか、という相手側からの視点。
時々耳にする、退職後に始めた田舎暮らしの失敗例は、そこに起因するケースが結構多いんじゃないかなあ、と。

あるいは「さっさと身辺整理をしてサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入ればいいのよ」なんて考え方もあるけれど、医療や介護が必要になった時には介護や医療のサービスを受けられる老人ホーム(有料老人ホームや特別養護老人ホームなど)へ移る必要が出てくる場合もある。
現在、国は在宅での介護を進めていこうとする方向で仕組みも予算も動かしているので、なんやかんや紆余曲折がありつつも、家があれば在宅で医療や介護の訪問のサービスを受けながら暮らすことができる可能性も高い。

家について考える上で大事なことは、「どこで暮らすか」ではなく「どう暮らすか」だと思うし、「どう暮らすか」は個人の価値観はもちろん、ライフステージの変化とともに求めるもの、必要なものが変わって当然。
もちろん、「どう暮らすか」の中に「どこで暮らすか」があっていいんだけど、「どう暮らすか」が「どこで暮らすか」に引きずられて優先順位を見誤ると、暮らしの幸福度とか満足度が低くなってしまう。
新築ブランドマンション市場に並ぶ「〇〇アドレスに暮らす」みたいな文言や、地方移住を促す「憧れの田舎暮らし」みたいな文言、はたまた、戸建住宅でもマンションでも、家を買おう・建てようとする時にリセールバリューという考え方に引きずられてしまうのはなんか色気がないなあ、と感じてしまったりする。
それもまた人生といえば、まあそうなんだけど。
ただ、「どこで暮らすか」っていうのは、自分の思い通りにならないことのほうが多いんじゃないかな。

……ところで、「リセールバリュー」って言葉は商標登録されていて、再販価格って意味で使う分にはいいけど商標としての使用には制限があるんですって。
今知ったわ。

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