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私の推し悪魔サタンについて語ります~紀元後編~

私が悪魔、そして悪魔学がなぜ好きなのか。
それは人類が「悪」と言うキャラクターをいかにして生み出したかの歴史だからからである。ハマる推しは必ずラスボス。悪役ソムリエの私はそう思うのです...。

前回から時間が空いてしまいましたが、今この記事に関してアイデアが纏まったので久しぶりに悪魔語りします。前回はこちら!

古代では、まだ『悪役』が発明されていなかった

紀元前、ユダヤ教の逸話にて存在した「サタン」は、今キリスト教で語られる悪魔「サタン」とは違い、ちょっと頑固でストイックな天使でした、と言うのが前回のお話でした。

これは旧約聖書のお話ですが、同時代、紀元前の地中海には様々な神々...神話が溢れていました。
一番知られているのはギリシャ神話かと思います。
また、地域で様々なバリエーションがありますが、同じ世界観で語られているのがメソポタミアの神話群。
地中海からはやや離れますがもう少し東に行くとインド神話に行き着きます。
少し、物語性が薄いのですが、エジプトの神々も知られたところではありましょう。

これらの神話では「神々の争い」がいく場面も描かれています。それは自然現象の暗喩であったり、歴史の一端が語られていたりと色々パターンがありますが、共通しているのは『絶対に悪い存在』がいない事です。
「いやこいつダメだろう...」という所感を持つ神様はもちろん...いるのですが、どの神々もそれぞれの理由を持ち、価値観の違いで不和が起こる、というシナリオになっています。

お隣さんの神話はどことなく似てしまう件

先日、古代ギリシャ・神話研究家の藤村シシンさんの講座を受講しました。

そこで話してた内容が非常に面白かった。
「歴史学的観点からも、ギリシャ神話がアジア(ここで言うアジアはトルコより東の地中海沿岸)の影響を受けているとされている。」
「アジアの神話の翻案のようなギリシャ神話で、1番のオリジナリティが現れているのは『英雄』である。」

な、なるほど〜!確かに!!
今のサブカル界隈では、物語の要素やパターンが共通するものを『同ジャンル』と言ったりしますが、地中海の神話はざっくり言うと『同ジャンル』!

古代ギリシャ神話のディオニソスが彷徨ったように、ギリシャ、エジプト、メソポタミア、ペルシャ、インド...これらの国々は人の行き来があり、時代と条件が揃えば情報の伝播があってもおかしくない。
(それらを一つ一つ証明するのがとても大変ではあるのですが...仮説を裏付けて解明していく歴史学者の人たちは偉大です。)
そんな中、大体の筋、登場人物の役割、物語の展開、設定が少しづつ重なっていくのは不可能なことではなく...。

そうやって端端に共通点がありつつ構築された神話の中で、浮き出てくる『オリジナルな要素』が各神話の魅力であり人を惹きつけるキーポイントになるんですね。

神話における『オリジナリティ』とは

今、私は『東京ネームタンク』という漫画のシナリオ構築を学べるところで改めてシナリオについて学んでいるのですが、そこで代表のごとう先生が
「好きな作品の、好きな部分を抽出、膨らませて再構築すればそれはもうオリジナルになり得る」
と言った話をしていたのがなるほどなーと思いました。

例えば、同じ『異世界転生もの』でも『恋愛』をテーマにしたものと『バトル』をテーマにしたものでは全く違う話になるわけで。
神話にその考えをなぞらえると『英雄』をテーマにしたのが『ギリシャ神話』だと言えるわけです。

そして神話という強豪他種が殴り合う世界の中、『悪の根元』を考え抜きそれを確立させたのが『キリスト教の悪魔ルシファー(サタン)の物語』でした。

『オリジナリティ』の確立に苦悩したキリスト教

紀元元年にイエスが誕生し、それからキリスト教の歴史がはじまるのですが、
初期の教父たちは頭を悩ませていました。
キリスト教こそ唯一の真実を語る宗教であると言うことを指し示したいのですが、ギリシャ・ローマ神話はじめ他の神々の信者から「それ、うちの神話のパクリじゃね?洪水の話とかうちの神話だし。」と言われ苦虫を噛み潰す日々。

また、イエスが生まれる前からユダヤ教の中で異彩を放っていた「唯一神が実は一周回って人間にとって害をなす悪しき神なんじゃないか」と言った考えを持つ『グノーシス主義』も言論バトルに加わって場は大混乱。
異教徒達を納得させ、唯一神に陰謀論を被せる『グノーシス主義』に対しても「唯一神こそ絶対的正義の神!!」と言うことを証明するために必要だったのが、今までの神話にない存在『絶対悪』というキャラクターでした。

『俺が考える最強の悪役』の発明

そこでキリスト教の教父は聖書を隅から隅まで読み尽くしました。「唯一神は絶対的正義の神、その証拠は、聖書の中にあるはず...聖書の中に神に敵対する『絶対悪』が隠されているはずだ...!!

聖書、特に紀元前に確立した旧約聖書の中には、地中海世界の神話の断片が凝縮されていました。その物語の中から、唯一神に対抗する小さな障害、『敵役』達を教父達は一つ一つ拾い上げて紐づけていきました。
『エデンの蛇』『失墜したバビロニアの王』そして『監視の天使のサタン』新約聖書からは、終末を語る『ヨハネの黙示録』から『666の数字の獣と赤き竜』を、またグノーシス主義の影響を色濃く受けている『死海文書』からは『闇の息子ベリアル』、『ヨベル書』からは『堕天使マステマ』を...。

遡ると『ギルガメッシュ叙事詩』の『フンババ』から...各神話の敵役の面影を、何千年もの歴史をかけ引き継いできた聖書に記された敵役の群れを、さらに詰め合わせてブラッシュアップさせ「こいつ本当はいいやつなんじゃないの?」という隙も無くすほど悪で固めたキャラクターそれが...、

「神に反旗を翻し、無残にも破れ地獄に墜落したのち、王権を築き人類に原罪と死を与えることで復讐を成し遂げた、堕天使ルシファー=悪魔王サタン」という、
『俺が考えた最強の悪役』キャラが紀元後4世紀に爆誕したのでした。

最高の悪役は最高の主役を作る

「名作には良い敵役がいる。」とはシナリオの話でよく語られることですが、
最高の主人公を作ろうとするとそれに対比させるための絶対的な悪役が必要になることがあります。
ルシファー(サタン)が成立するまでの歴史はまさにその過程ですし、今や「悪役の原型(アーキタイプ)」と言われる存在です。
この物語があったからこそ今のキリスト教の繁栄があるのかもしれないと、推しをよいしょしたい私は思うのでした。

以上、推し悪魔『サタン』について語る、後編でした!
いやぁ。カッコいい悪役!!最高に萌えますね!!!
悪役ソムリエ、悪魔学研究者としてこれからも悪役について研究していきたいです!

<参考文献>

難しい内容だったのでちゃんと理解できているか不安ですが、今回のお話はこの本『古代悪魔学』から...また定期的に読みたい本です!




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