「らくがき少女」第3話
悲しみを背負った少年と少女は夜通し走り続けていた。体が限界まで近くなると、二人は手を握りながら休憩を取り、また走り出す、それを数日間続けていた。水だけは途中の川から飲んだ。そして街からはだいぶ離れた、森に入っていくのであった。迫りくる現実から逃げるように。
二人は川の側で仰向けに寝転んでいるだいぶ夜になり月が出ている。月明かりが二人を照らしている。
月島「今日もかなり走ったね。喉が渇いた。水を、」
月島は匍匐前進で川の方に行く。
陽「私も」
陽も匍匐前進で川の方まで行く。月島は動物が川から水を飲むみたいに飲んでいる。陽も真似してやってみる。月島はその様子を見て笑う。陽も笑う。二人はグーっとお腹が鳴る。
陽「何か食料を調達しなきゃ」
月島「そうだね」
月島は俯いて元気がなさそうにしている。
陽は不思議そうに首をかしげ、月島を見る。
陽「疲れた?大丈夫?」
月島「なんでも・・」
月島が首を上げ、陽に話した瞬間、風が吹く。陽の片方の瞳が露になる。くっきりとした瞳で今にも吸い込まれそうな程綺麗だったが、瞳の中の鋭さは消えていた。
月島はうなだれる。何故か本当の心の気持ちを言わなくてはと思った。
月島「怖いんだ。僕はあの男の人を殺してしまったのかもしれない。僕はあんなつもりじゃ」
陽は月島の話に耳を傾けている。
陽「でも私を守ろうとしてくれたんでしょ?」
陽は立ち上がり、泣いている月島に手を差し出す。
陽「私がいるから安心して。絶対うまくいく」
月島「え?」
陽「明日の食料調達」
月島「うん!ヒナ隊長」
月島は泣きながら陽の手を握る。
陽「多分だけど」
月島「もう!絶対って言ったのに!」
月島は笑う。陽は照れて俯く。
陽「だって、この辺に食料があるか調べてみないことには・・」
月島「僕たちなら大丈夫。きっとうまくいくよ」
陽「そうだね」
陽は能力でマッチを作り、焚火をつくった。その焚火を囲んで二人は眠りに落ちた。
深夜ー月島が起きると、陽は反対側を向いて泣いていた。
陽「お父さん、お父さん」
月島はヒナ隊長だってつらい思いを背負っているのには変わりないんだ。なのにあんなに僕を励ましてくれて、元気づけてくれた。明日の食料調達は絶対成功させようと思うのであった。
×××
ー翌朝ー
陽が起きると月島が水浴びをしていた。川の方から月島が大声を出す。
月島「ヒナ隊長!おはよう!僕はお風呂はいったら準備万端だからちょっと待ってて」
陽はあまり大きい声を出したことがないが、精一杯の声で答える。
陽「わかった!私も少し準備してる!」
月島は聞こえていないのか遅れて手を上げて合図をおくる。
その日は鹿一頭と少しの野草をゲットできた。
この日以来ここで1年ほど過ごした。二人の悲しみの傷は少しずつ和らいでいった。二人は少したくましくなり、一人で狩りができるようになるほどになった。陽は持ち前の頭脳で罠を張ったりして狩りをした。次の旅のためーどこへいくかは決まっていなかったがー体力温存のため能力は極力使わずに。
月島はというと自前の木の槍で狩りをできるくらい、たくましくなっていた。見た目はターザンのような感じになり、野性味あふれる少年になっていた。一方少女は前髪だけ目の上になりきれいにパッツンになった。
そして二人は今、この近辺の主であるライオンと対峙していた。
ライオンの近くで月島は対峙している。陽は近くの木の上から様子をうかがっている。
月島「ヒナ!」
陽「わかった」
慣れた手つきで腰のポケットから自作の筆を取り出し、予め貯めておいた自分の血がついた竹のような者から血をポンと浮かせる。浮いた血に筆をつけていく。木に敵のライオンより少し小さいサイズを描く。
陽「出でよ!トラ!」
月島「それライオンでしょ?まだ区別つかないの?前も教えたでしょ?鬣があるのがライオンでトラは・・」
陽「出でよ!ライオン!」
月島「ヒナさーん?聞いてますかー?」
ライオンが地面の絵から出現する。サイズは少し小さく優しそう。
陽「突撃!ライオン!」
月島「なんか弱そうだけど大丈夫?」
陽のライオンは野生のライオンにぶつかり、破裂する。
陽「やっぱりこのサイズの具現化は厳しいんだ。中身が空っぽ。なるほど」
月島「いや、なるほどじゃないでしょ!」
ライオンが月島に向かっていく。月島は一瞬面くらう。
月島「えーーー。何やってんだよ!ヒナ!」
月島は表情を引き締める。
月島「しょうがないな、疲れるけど、僕の新技・・・」
ライオンは眠る。月島が驚く。
月島「え!?」
陽「やった!できた!」
月島はライオンに近づく。
月島「なんで。。僕の覇気・・?」
陽「かもしれないね」
月島「うわっ。ビックリした」
陽「眠り草。混ぜといた。」
月島「え、ヒナも新技作ってたの!聞いてない!」
陽「あんただけじゃないのよ。強くなりたいのは」
月島「ちぇっ。自慢しようと思ったのに」
陽は鍵を手に取り、じっと見つめた後、少し間をおいて、
陽「早く鍵の秘密を解かなきゃ」
月島「手掛かりはあるの?」
視線をカギから月島に移して、
陽「まあーねっ!」
陽は満面の笑み。
体ごと前に向き直して前方方向に指を刺す。
陽「よし!前に進もう。行くよ!」
月島「それ俺が言おうと思ったのに」
二人の少年少女はたくましく成長している。グレー一色の街を元に戻すため、鍵の秘密を突き止めに旅に出るのであった。