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故郷 /エッセイ

故郷は、動かないものだと思っていた。
私の家はずっとここにあるものだと。

上京して半年経ったころ、
沢山の段ボールが届いた。
実家もあと1ヶ月足らずで引っ越してしまうらしい。


私と兄が出て行った後の家は、ガランとしていて父と母が2人だけで過ごすには寂しさが漂っていた。

そうだよなぁ、と呟きながら
久しぶりに帰る連絡を入れた。

この家で過ごせるのは恐らく今回が最後になる。

年始に帰省したばかりだが、
精神的な疲れが溜まってたのもあって
1週間強と少し長めに居座ることにした。

それに、両親はもういつ何が起きても
おかしくはない年齢になったのだ。

こうやって過ごせるのも、
後どれくらいなのだろうか。


顔馴染んだ駅に降り立つたびに
そこは、
おかえりという代わりに
少しよそよそしい顔をする。


幼馴染の家もまた、
少し前にこの街を離れた。


実家も引っ越してしまって、
幼馴染も居なくなってしまったら、
この街に帰る理由がなくなっちゃうじゃんか…

私の愛した街が、少しずつ薄れてゆく。

さみしい



冷蔵庫を開けると、私のお気に入りのリプトンのミルクティーが買ってあった。

自分の部屋に入ると暖房で温まっていた。

この為に戻ってきたんだな、と強く実感する。

壊れそうになるたび、かえってきて
何度もこの優しさに支えられてきた。

家が変わってしまったら
この決まった形の、
長い年月が浮かび上がらせたこの一連の流れが、
全て断ち切られてしまう。



やだなぁ。ほんと。


故郷

そこは、いつも帰るたびに
前にも増して他人の顔をしてくる。


そこにあるのに
もう二度と戻れないみたいだ。

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