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モノノ怪がもっと面白くなる!心理学的観点から考察2「鵺(ぬえ)」チベット密教との一致点

今回は、TVアニメシリーズ モノノ怪 「鵺(ぬえ)」の深掘り考察です。今回はなんと、チベット密教と絡んできます。

鵺といったら 音の無い静寂の雪の夜に響くお寺の鐘の音。色の無い冬の世界に一色だけの彩り‥。目に麗しく、耳に心地よく、画面からは伝わらないはずの香りまでが匂い立つような・・そして、その静寂の侘び寂びの世界で薬売りさんが繰り広げていく、見事なまでの、言うなれば死者の異界送り。これもまた永遠の名作、傑作です。

1、死んだと気づかない者たちに死を追体験させる

伝説の香木、蘭奢待(らんなたい 通称 東大寺) を所持するという笛小路流を継ぐ瑠璃姫を巡り、組香を繰り広げる 3人の婿候補。東大寺、それを手にした者は天下人になれるという‥

( 左から ) 半井はん、室町はん、大澤さん  
瑠璃姫
「まあ、いいじゃありませんか」 組香にちゃっかり参加している薬売りさん


しかし、薬売りさんは物語の終盤で言います。「そう、この屋敷には、最初から誰も居なかった」と。えっ、どゆ事?

そう、この屋敷には最初から誰もいなかった。貴女と貴女に取り殺された哀れな者達以外は…

実尊寺はん、大澤さん、室町はん、半井はん。瑠璃姫 含め、登場人物は、薬売りさん以外は本当はもう、とっくの昔に死んでいるんですよね・・・

薬売りさんのやっている事は、

自分は死んだという事も気づかない/忘れている人達に「貴方はもう死んでるんだよ」ということを、死を追体験させる事によって認識させている。あの世にちゃんと送るために。魂の異界送り です。

私たちは夢の中でこれは夢だと、起きた後でないと気づけないのと同様に、死んだ直後に「私は死んだんだ」と認識するのはけっこう難しいらしいんです。亡くなって体から抜けた直後は、自分からは周りの風景も家族も見えて今まで通りなのに、家族にはいくら呼んでも自分の声は聞こえてない、らしいです (三途の川を渡りかけ臨死体験から戻って蘇生した、父の知り合い の実話)

一説には、貴方は死んだんだよ、という事を死者に知らせるためにお葬式というものがあるんだとか。それくらい認識できないものなのかもしれませんね。

2,チベット死者の書が死者の魂を導く

チベット密教では死後に死者の魂を導くという死者の書(バルド・トドゥル)という経があり、死にゆく人に「貴方は死んだのだよ」と明確に伝え導いていきます。NHKで放送されたチベット死者の書 では、ソナムツェリンという当主が亡くなったという設定で死後の道案内の物語が進んで行きます。

師匠:いよいよ意識と体の分離が始まったようだ。
弟子解説:この時になると死者は自分が死んでしまったのか、まだ生きているのか、分かりません。でも家族の事は見えるし、悲しんでいる声も聞こえます。

師匠:ソナムツェリンよ、よく聞きなさい。貴方にはあの”死”と言われるものがやってきたのです。でも寂しがってはならない。この世界から外に行くのは貴方ひとりではないのです。死は誰にでも起こるのです。・・・

『チベット死者の書 (NHK放送) 』より

人は死に際し最後まで残るのは聴覚だそうです。なのでチベットの僧侶たちは死にゆく人の耳元でバルド・トドゥル(死者の書)を死後もずっと読み続けます。とにもかくにも、「貴方はもう死んだんだよ」という認識がまず第一に大切だという事です。

3,登場人物達のそれぞれの真(まこと、事のありさま)

話はモノノ怪に戻りまして。瑠璃姫はんが亡くなり(※)、夜が明ける前に婿を決めようということで、香元を務めた薬売りさん。

※亡くなった、というよりとうの昔に亡くなっていたんですよね。記憶の部屋の襖を開いたという様な、時系列交錯パターン(モノノ怪では多用されてる)だと推測します。

調合前。薬売りさん、意外と お散らかし癖があられる・・
ちょっと、しくじってしまいました‥ひと吸いしただけで死んでしまうという、猛毒の夾竹桃を、つい、混ぜてしまいました‥‥ ( この下がり眉の困り顔は最高ですね)
うっかり、
うっかり。

うっかり、うっかり。( みんな大好き 伝説の名場面 )

薬売りさんは、頭の中がしびれるような香を焚き、それぞれが忘れていた  ”あの記憶” を再現させていきます。

①実尊寺はん
室町はんを愚弄し、斬り殺された。あの衣装が、なんとも・・(裸袴?)

②室町はん
愚弄され実尊寺はんを斬殺。愚弄されたという理由の他に、実尊寺はんが実質、組香の勝者になるだろうと見て蘭奢待 ( 通称 東大寺 ) を確実に手に入れる為に斬ったというのもあるんじゃないかな・・実尊寺はんの亡霊に取り殺される。

③半井はん
瑠璃姫に裏で直談判しに行ったところ、瑠璃姫が屏風絵に描かれた色男にうっとり…な場面を見てしまう。自分は貴女の為に店まで売ったのに!と(勝手な)激情にかられ瑠璃姫を刺し殺した後、瑠璃姫を焼いて自分も死んだことを思い出す(そうははっきりと描かれていませんが作中からの推測です)。

ではあの瑠璃姫は誰だったのか?といえば鵺が化けた姿、かな。幼女も、瑠璃姫も、ばーさんも。(子犬も??)

④大澤さん
夾竹桃を嗅いだので死ぬと思い込み、石段で首の骨を折るという死の追体験をする。薬売りさんが言うには「良いのですよ。あれがそう(夾竹桃)であろうとなかろうと。彼(ら)が、自分の人生はもう終わってしまったのだと、自覚出来れば、それで良いのです」。

彼は生前、事件を起こしてはいないけれど東大寺に執着したまま亡くなったと思うので、その思いが強かったんでしょうね。

●まとめ:本当はモノノ怪の鵺を斬りに来たはずの薬売りさん。そこで自分の死を知らない(忘れた)亡者達が夜な夜な終わりのない組香を繰り広げている様を哀れに思い、チベット死者の書も示す通り、死の追体験をさせることで、自らの死をちゃんと自覚させ、亡者生活を終わらせて、あの世へ送った、という事ですね。

4,死者の食物は、香り。妙なる香りで死者を送り出す

チベットの経典には「香りが死後のバルドの中での最高の食事となる」という一説があります。だからお墓や寺院ではお線香を供えるのですね。納得!

モノノ怪の鵺は、蘭奢待のもつ魅力と魔力だった。見る人によって姿を変える鵺、心狂わせる香。
人を惑わす魔の側面が祓われ、火で焚く事によって えも言われぬ芳香が立ち昇る

魔力と魅力は紙一重… かつて天下を求め、あるいは高貴なる香を求め、東大寺の魔力に狂い 取り殺された、寺に眠る無数の墓標に、

だからといって これはさすがに やりすぎですね・・・

雅なる芳香が届く。

ちゃっかり実尊寺さんも・・よく見るとみんないる!

死んだ者たちに死を自覚させ、 皆が追い求めてやまなかったその名香で死者を送り出す。薬売りさんの、なんと粋な はからいでしょうか。

香、満ちたようでございます。

香、満ちたようでございます。
朽ちた寺 今はないという記憶・・

いやあ、チベット密教に興味があった時期があり、知ればモノノ怪 鵺がもっと深く面白くなる!と思い、書いてみました。

香道 から見ても 大変面白いのでしょうね。

5,(おまけ♪) 離さんの襖スパーン開け

劇場版の薬売りさんは坤さん。TV版は離さん。劇場版モノノ怪は坤さんの襖スパーンが印象的ですが、鵺でもやっぱりやってましたね。襖スパーン開け笑 (2回も)

ここからのぉ・・・・
ふすまスパーン! いつでも いきなり開け
二度目の スパーン!(  瑠璃姫はんが亡くなった時の記憶の部屋の襖を開ける! )
離の薬売りさんは 机の上に乗りがち
実尊寺はんを背負っての「とき、放つ!」顔色一つ変えず‥さすがモノノ怪慣れしていらっしゃる

それでは、また♪

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