ドイツ会計制度②1998年~2004年
今回は、1998年資本調達容易化法から2004年会計改革法における計算規定を概観します。
1 1998年資本調達容易化法(KapAEG)
1993年9月に,ドイツを代表する企業ダイムラーベンツの株式が、アメリカ預託証券によって店頭取引として初めてニューヨーク証券取引所(NYSE)で取引されました。その際,ドイツ商法典(HGB)準拠の連結決算書にアメリカ会計基準(US-GAAP)準拠の連結決算書との重要な差異を示す調整表が添付され提出されました。そして翌1994年に,1993年度利益がHGB準拠の連結決算書とUS-GAAP準拠の連結決算書とで24億独マルク(当時)を超える差異があることが明らかとなりました。つまり,HGB準拠の連結決算書では約6億独マルクの黒字であったのに対し,US-GAAP準拠の連結決算書では約18億マルクの赤字という事実が,単に両基準の相違という認識を越えて,HGB準拠の連結決算書に偏向があるかのような印象を与えました。
ビュステマン(J.Wüstemann)は「ドイツ型とアメリカ型の計算行為が乖離する場合,たとえばダイムラーベンツのケースにおいて,なぜアメリカの会計原則に従って確定された利益が『正しい』あるいは『真実』であると仮定されるのか明らかでない。」(Wüstemann 1996 , S.430)としています。しかし、情報提供機能に特化したUS-GAAP準拠の連結決算書が「適正な損益算定」についてHGB準拠の連結決算書より優位とみなされたことは確かです。
その後、17の企業集団が、HGB準拠連結決算書数値のUS-GAAPの準拠連結決算書数値への調整計算を行うというダイムラーの後を追いました。これらのドイツの企業集団にとって、たとえUS-GAAP準拠連結決算書が簡易形式で受理されたとしても、HGB準拠連結決算書とUS-GAAP準拠連結決算書の作成による二重負担が生じました。
その結果として、立法当局は、上場ドイツ親企業に対し、HGB準拠の連結決算書の代わりに国際会計基準(International Accounting Standards;当時)またはUS-GAAP準拠の連結決算書の作成を許容する、1998年4月20日の資本調達容易化法(KapAGE)によりHGB旧第292a条を創設しました。
2 1998年企業領域統制・透明化法(KonTraG)
1998年4月27日に制定された企業領域統制・透明化法(KonTraG)により、連結注記・附属明細書にキャッシュフロー計算書(Kapitalflussrechnung)とセグメント報告書(Segmentberichterstattung)が導入されました。
3 2000年資本会社&Co.指令法(KapCoRiLiG)
2000年2月24日に制定された資本会社&Co.指令法(KapCoRiLiG)によって、有限会社&Co.指令(Richtlinie 90/605/EWG)がドイツ法に転換されました。KapCoRiLiGによって、HGB準拠の連結決算書の代わりにIASまたはUS-GAAP準拠の連結決算書の作成を許容する免責措置の適用範囲が、特定の資本市場指向の非資本会社にまで拡大されました。
これによって、上場ドイツ親企業に対するIASまたはUS-GAAP準拠の連結決算書による代替により、IASまたはUS-GAAP準拠連結決算書とHGB準拠連結決算書との情報提供内容における著しい差異、それに結びついた経営陣サイドの自由度、および情報利用者にとっての比較可能性の欠如が容認されることになりました。
4 2002年透明化・開示法(TransPuG)
ドイツの立法当局は、2002年7月19日に成立した透明化・開示法(TransPuG)によって既に4年前に導入された、会計法の領域における変化をさらに前進させました。TransPuGによって,HGBの連結会計規定が,以下のように修正されました。
①部分連結決算書の免責が一部解除された。
②連結注記・附属明細書にキャッシュフロー計算書とセグメント報告書に加
えて,持分変動計算書(Eigenkapitalspiegel)が導入された。
③連結決算書の基準日を親会社の個別決算書の基準日に合わせることが求め
られた。
④資本連結の際の取得原価限度が撤廃された。
⑤内部利益消去に係る特例が廃止された。
⑥連結決算書における逆基準性(umgekehrte Maßgeblichkeit)が排除された。⑦連結範囲や持分の所有比率の記載に関する特例が廃止された。
⑧活動領域ならびに地理的に区分された市場に基づく売上高の分類(セグメ
ント情報の一部)の記載に関する特例が廃止された。
5 2004年会計法改革法(BilReG)
2002年7月に成立したEU規則Nr.1606/2002(Verordnung (EG)Nr.1606/2002)は、EU加盟国にある取引所に上場するヨーロッパ企業(EU加盟国企業以外に、アイスランド、リヒテンシュタインおよびノルウェイの企業も含む)に対し、2005年の事業年度から国際財務報告基準(IFRSs)に準拠して連結決算書を作成することを要求しました。ドイツでは、上場企業の場合、2005年1月1日から、上場を申請した企業については2007年1月1日からIFRSsが強制適用され、そして非上場企業については2003年1月1日からHGBとIFRSs間の選択が可能となりました。この段階で、財務会計は財務報告へ脱皮したといえるでしょう。
総ての企業は、同時にHGB準拠の個別決算書を作成しなければなりません。情報提供目的についてのみ、資本会社はIFRSs準拠の個別決算書も作成することができ、連邦官報で公開されます。
会計報告が、ドイツ法以外の外国法ないしドイツ基準以外の外国基準に開かれることにより、当時、以下の理由で比較可能性が低下しました。
①上場親企業は、IFRSs準拠連結決算書、HGB準拠個別決算書および税務決算
書(Steuerbilanz)を作成しなければならない。NYSEに上場した企業は、さら
にUS-GAAP決算書を作成ないし相応の調整を行わねばならなかった(当
時)。それによって3つ又は4つの相互に異なる会計基準が重要となった。
② 上場企業を親会社とする子企業は、HGB準拠個別決算書のみの作成を固持
することができない。なぜなら、HGB準拠個別決算書は上場親企業の連結
決算書の作成のために簡単に利用できないだろうからである。さらに、当
該子企業は、これとは無関係な税務決算書も作成しなければならない。
③ HGB準拠の個別決算書は、配当に関連するが、IFRSs準拠の個別決算書
は、公開にのみ利用される。したがって、IFRSs準拠の個別決算書では、情
報利用者においては課税所得と無関係な、「適正な損益」とは何かという
ことが問題になるはずである。
この混合状態は、HGBの規定が、少なくともIFRSsにどの程度統一ないしは近接されうるかという考察につながり、結果として、2009年5月に施行された会計法現代化法(BilMoG)制定へと至りました。
文献
Wüstemann, Jans 1996, “ US-GAAP : Modell für dan deutsche Bilanzrecht ?,”
Wirtschaftsprüfung(WPg) Jg. 49.
Richtlinie 90/605/EWG des Rates vom 8. November 1990 zur Änderung der
Richtlinien78/660/EWG und 83/349/EWG über den Jahresabschluß bzw. den
konsolidierten Abschluß hinsichtlich ihres Anwendungsbereichs.
Verordnung (EG) Nr. 1606/2002 des Europäischen Parlaments und des Rates
vom 19. Juli 2002 betreffend die Anwendung
internationaler Rechnungslegungsstandards.