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アメリカ会計基準の歴史⑨

 今回は、現在のアメリカ会計基準の設定機関である財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board:FASB)の設立に至るまでの経緯の概略を解説します。

①会計手続委員会(Committee on Accounting Procedures:CAP)

 アメリカにおける会計士監査の制度は、19世紀の末頃、イギリスの勅許会計士(Chartered Accountants)の制度を移植することよって始まりました。しかし、それが特に発達したのは1917年の連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board)の勧告以後です。ただ、当時の会計士監査は任意監査でした。強制監査が始まるのは、1933年証券法の制定によってでした。
 1933年証券法と1934年証券取引所法に基礎を置く、証券取引委員会(SEC)会計連続通牒第4号が出されてからは、会計原則の確認と設定の権限と責任が、事実上SECからアメリカ会計士協会(1956年にアメリカ公認会計士協会に名称変更)に委任されました。すなわち、SECは直接自ら会計方法を作成することなく、会計原則を確認・設定する権限を、事実上アメリカ会計士協会に委ねました。なお、当時は現在の「会計基準」に相当する用語として「会計原則」という用語が一般的でした。
 アメリカ会計士協会は、それを受けて既にあった会計手続委員会(Committee on Accounting Procedures:CAP)を改組・拡大し、それに会計原則の設定・発行の権限を与えました。つまり、アメリカ会計士協会内に設置されたCAPに会計原則についてのプロナウンスメントとしての「会計研究公報」(Accounting Research Bulletin)を出版する権限が与えられました。この「会計研究公報」がアメリカの会計基準の中心を構成しました。1939年以降42回発行され、それらが1953年の第43号として、集大成され「改訂会計研究公報」(Restatement and Revision of Accounting Research Bulletins Nos.1-42, 渡邊進・上村久雄訳1959『アメリカ公認会計士協会編 会計研究公報・会計用語公報』神戸大学経済経営研究所)として、公表されました。ただし、「会計研究公報」は会計基準の中心とはいえ、一例であってそのすべてではありませんでした。

②会計原則審議会(Accounting Principles Board:APB)

 その後、1950年代にCAPの「会計研究公報」シリーズが激しい批判にさらされる事態が起こり、無体系の「会計研究公報」に代わって体系的な会計原則の構築を目指して、1959年に、アメリカ公認会計士協会内に会計原則審議会(Accounting Principles Board:APB)が設置されました。APBは、委員の3分の2以上の多数の賛成を得て「オピニオン(意見書)」と「ステートメント」を発行しました。「オピニオン」には強制力があり、「ステートメント」は勧告として区別されました。
 APBは、研究プロジェクトごとに外部の人間も含めてプロジェクトの割り振りを行い、その研究結果は「調査研究」(Research Study)として公表されました。APBは、1959年から1972年まで活動し、31の「オピニオン」と4つの「ステートメント」、そして15の「調査研究」を公表しました。しかし、1960年代の中頃には、APBの「オピニオン」は、CAPの「会計研究公報」と同質の批判を受けるようになりました。

③財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board:FASB)

 1971年3月に、アメリカ公認会計士協会の当時の会長アームストロングはウィートを委員長とする委員会を任命し、会計原則の確立過程に関する研究とそれに基づく勧告を求めました。1972年3月に出された同委員会の報告書「財務会計基準の確立」の勧告に従って、1973年に財務会計基準審議会(FASB)に会計原則審議会の仕事が引き継がれ、今日に至っています。
 まず、公認会計士協会と別組織として財務会計財団が設立されました。当財団は、9名の無給の理事から成り、うち1名は公認会計士協会の会長、4名は公認会計士、2名は企業の財務担当部長、1名はフィナンシャル・アナリスト、そして1名は会計学者から選ばれます。そして当財団によって会計基準の設定を行うFASBのメンバーが任命されます。
 FASBは、7名の有給のフルタイムのメンバーで構成され、そのうちの4名は公認会計士でなければなりませんが、他の3名は財務会計問題についての多くの経験があれば公認会計士でなくともよいとされています。以上の変更の結果、会計基準設定機関としてのFASBの客観性・独立性を強調しFASBの「財務会計基準ステートメント」の権威を増大させました。

【翻訳】
American Institute of Certified Public Accountants 1970, Basic Concepts and 
 Accounting Principles Underlying Financial Statements of Business
 Enterprises. Statement No.4 of APB(川口順一訳1973『アメリカ公認会計
 士協会 企業会計原則』同文舘).
――――1973-1974, Objectives of Financial Statements(川口順一訳1976『財
 務諸表の目的』同文舘).

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