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アメリカ会計基準の歴史⑭
アメリカ会計学会(AAA)の1966年の報告書、「基礎的会計理論」(ASOBAT)
AAAの1966年「基礎的会計理論」(ASOBAT)の貢献は、会計を情報システムとして位置づけ、伝統的な解釈から解き放つことによって、その領域拡大の可能性を示した点にありました。しかし、その目的は、会計実務の改善に寄与するという、いわば伝統的なものでした。ASOBATは、最初にその目的について次のようにいっています。
「本委員会が主として力を注いだのは、個々の実務を判断することのできる概念の基礎を確立することであった。」(AAA 1966, p.1、飯野訳1969,1頁より引用)
しかし、ASOBAT公表の2年後の1968年のAAAの報告書では、ASOBATの基準の操作性について次のような評価が下されました。
「これらの基準は、ASOBATのなかで定義され論じられているけれども、実行するに十分なほどには明確にされてはいない。したがってわれわれには、これらの諸基準を十分に操作的にすることはできなかった。」(法政大学会計学研究室訳1973, 154頁)
その後、約10年を経て、ASOBATと同じような報告書の作成を命じられたレブスン(L. Revsine)等は、その使命に対して次のように答えざるをえなくなりました。
「しかし、そのような変化も、過去10年間に集められた新しい知識によって、会計職業が直面する多くのさし迫った問題にはどれひとつとしてやさしい理論的な解答はないという見方が十分に証明されているから、またむだに終わろうとしている。
こうした理由から、われわれの報告書は会計理論のステ-トメントではない;それにかえて、われわれは会計理論及び理論承認に関するステ-トメントを作成したのである。」(AAA 1977,p.ix、染谷訳1980, v-vi頁より引用)
会計実務の改善に寄与するというASOBATが掲げた目的は、その後のFASBのプロジェクトにおける概念ステ-トメントに引き継がれました。そして、そこではASOBATの「多元的規準アプロ-チ」も、具体的な適用については多少の相違点はあるにせよ、概念フレームワーク・ステートメント第2号「会計情報の質的特徴」として踏襲されました(FASB 1980;翻訳、平松・広瀬訳 2002)。
「時価」対「原価」の論争は、ASOBATによって示された「時価」と「原価」の両方を呈示するという多元的評価によって一応の決着をみました。もちろん、これは決着というよりはむしろ、コンピューターの発展に伴う情報処理技術の拡大を背景にして、「意思決定有用性」というスローガンのもとに行われた、理論上のモラトリアムというべきものでした。例えば、AAAの1977年報告書は次のようにいっています。
「同じように、開示の拡大を、伝統的な測定論争を解決する手段とみるものもいる。たとえば、歴史的数値とカレント・コスト数値の両方を市場関係者に報告すれば、インフレ-ション会計に関する論争は除かれてしまう。」(AAA 1977, p.38、染谷訳1980, 84頁より引用)
ASOBATの意義は、時価情報の開示に限られるわけではありません。ASOBATがそれまでの複式簿記を前提とした会計システムから、会計システム自体、そして会計理論を解き放つ大きな契機となり、日本でもその後「情報会計論」として展開する会計理論の出発点となりました。すなわち、応用情報システムとしての会計システムの解釈は、その後、情報会計論および実証研究、並びに現実の会計システムのコンピューター化に対して、「思想的基盤」を与えたことは明かです。
しかし、ASOBATの具体的な提案の中では、時価情報開示に最も大きなウエイトが置かれ、その後のFASBによる時価情報開示の制度化に対しても「思想的基盤」を提供したと見ることができるでしょう。財務会計基準ステートメント(SFAS)第33号は、一般物価変動修正と個別物価変動修正の両方を含む「結合会計」という方法を採用しましたが、それは、いずれのインフレ修正が有用かという「実験」でもありました。ASOBAT自体は個別物価変動修正のみを意図し、ASOBAT作成委員会のメンバ-であるモリソン(R. H. Morrison)が一般物価変動修正の方が望ましいという意見を表明していますが(飯野訳1969、136頁)、こうした「実験」もASOBATによって提示された「思想的基盤」を前提として初めて可能となったと考えられます。
【文献】
American Accounting Association 1966, A Statement of Accounting Basic Theory(飯野利夫訳1969 『基礎的会計理論』国元書房).
―――― 1969, Committee on External Reporting - An Evaluation of External Reporting Practices - A Report of the 1966-68 Committee on External Reporting, Accounting Review 44(Supplement, 1969) (法政大学会計学研究
室訳1973『基礎的会計理論の展開』同文舘).
――――1977, A Statement on Accounting Theory and Theory Acceptance
(染谷恭次郎訳1980『会計理論及び理論承認』国元書房).
Financial Accounting Standards Board(FASB)1978 Statement of Financial
Accounting Concepts No.1, “Objectives of Financial Reporting by Business
Enterprises”(平松一夫・広瀬義州訳2002『FASB財務会計の諸概念〔増補
版〕』中央経済社).
―――1980 Statement of Financial Accounting Concepts No.2. " Qualitative
Characteristics of Accounting Information"(平松・広瀬訳2002)