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学問としての会計学⑧公正価値モデル

1.公正価値と取得原価


 1990年代以降に加わった領域は、期末に新たに評価される項目が中心です。一部の有価証券や棚卸資産の時価評価、および退職給付会計等における期末評価額は、決算日における時点的情報としての期末評価額が中心です。すなわち、一部の有価証券や棚卸資産は、公正価値モデルに基づいて時価評価されています。欧米では「時価」に換えて「公正価値」という用語が一般的になりました。
 取得原価か時価(公正価値)かというと二者択一のように聞こえますが、取得原価は取得時のものがずっと継続され、一回限りです。これに対し、時価(公正価値)は、下掲の図の株価におけるように、期末期ごとに更新されなければなりません。つまり、「1対1」ではなく、「1対多」なのです。取得原価と比べて時価(公正価値)は手間とコストがかかります。

2.インフレ会計とASOBAT


 公正価値モデルは、価値測定のための計算であり、投下資本の回収計算である原価モデルとは異質です。現代会計は、原価モデルと公正価値モデルという異質な会計モデルのハイブリッド会計として特徴付けられます。
 インフレ期に取得原価主義会計により算定される利益には、本来利益とされるべきでない、いわゆる「架空利益」が含まれます。それを除去するためには時価評価が必要です。 架空利益について、計算例で見てみましょう。
〈計算例〉
 いま、ある商品を20×1年1月に650円で購入したとします。同商品の購入価格が、20×1年4月に700円に値上がりしたとします。そして、20×1年5月に同商品が800円で売却されたとします。
 取得原価主義会計では、800円の売上収益から取得原価650円をマイナスして、差額の150円が利益となり、配当や税金として社外流出する可能性が出てきます。仮に、全額が社外流出すると、購入価格が700円に値上がっているため、費用計上によってプールされている650円では再び同商品を購入し、ビジネスを継続するためには50円不足することになります。
したがって、この不足額50円は利益とすべきではなく、費用計上によってプールされねばなりません。本来、利益とすべきでない「架空」の利益であるため「架空利益」と呼ばれます。

 インフレ期に発達したアメリカ会計理論は、時価擁護論が中心でした。「時価」と「原価」のうち、いずれが「真実」かという枠で「架空利益」を除くことができる時価評価の正当性が叫ばれました。
 にもかかわらず、実務は取得原価主義を墨守し続けました。しかし、1966年にアメリカ会計学会は、『基礎的会計理論書』( " A Statement of Basic Accounting Theory ",当時、『ASOBAT』と略称された)を公表しました。そこでは、投資家等の意思決定への役立ち、すなわち「意思決定有用性」を一番重要な会計情報の属性であるとしました。その結果、「時価」と「原価」のうち、いずれが「真実」かという従来の問題を「時価」と「原価」のうち、いずれが「有用」かという問題に置き換えました。
 いずれが「真実」かの問いには答えは1つしかありませんが、いずれが「有用」かの問いの答えは複数でもかまいません。1970年代の先進国の2桁インフレの折、英米で原価と共に補足情報として、一部の企業に時価情報の公表が要請されました。
 この流れが、後の「公正価値モデル」の導入・拡大によるハイブリッド会計につながっていきました。
 会計学名著紹介シリーズ第3回では『基礎的会計理論書』(ASOBAT)を紹介しています。

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