見出し画像

『分析財務諸表論』③

第3章 減価償却の目的と効果、そして資産除去債務

 減価償却は、簿記の学習の初期に出てくるので、おなじみの分野だと思います。しかし、実は減価償却は深く理解するのが難しい分野です。深く理解すると単に分析や試験対策として有効なだけでなく、自分でビジネスを行う際にも役立ちます。以下では、減価償却について詳しく解説します。そしてそれを踏まえて、資産除去債務について解説します。 

 1 減価償却の目的と効果

(a)  減価償却の目的(正しい損益の計算)
 いま、取得原価90万円の減価償却資産を使って3年間のビジネスを行うとします。

 減価償却しない場合、かりに収益が40万円だとすると、第1期の損益は、-50万円(40万円-90万円)となります。その後、第2期と第3期の損益は40万円(40万円-0円)となります。収益が40万円で共通しているのに、第1期だけ損失で、第2期と第3期は、収益がまるまる利益となるのは損益計算として合理的でないのは明らかです。

 今度は、取得原価90万円、耐用年数3年、残存価額ゼロで、定額法で減価償却を行うとします。第1期、第2期と第3期とも損益は+10万円(40万円-30万円)となります。損益計算の適正化、これが減価償却の目的です。 

(b)  投下資本の回収と未回収
 減価償却を「投下資本の回収」という視点から見ると、下図のように減価償却によって費用計上された分(30万円)は初期投資(取得原価)90万円のうちの当期の回収分となります。一方、資産として計上された、未償却残高(60万円)は、未回収分となります。

(c) 減価償却の効果
 前節で説明した投下資本の回収分としての費用は、企業内に留保されます。ただし、その金額が現金として蓄えられるわけではありません。
 一方、収益から費用を控除して求められる利益は、配当や税金として社外流出する可能性があります。

 この点を別の視点からずに表したものが下図です。

 利益は消費可能な「果実」にたとえられます。一方、企業内に留保される費用は翌年以降の収穫、つまり再生産のための「種もみ」にたとえることができるでしょう。
 このたとえを踏まえて、減価償却の効果について説明します。耐用年数が3年経過した時点で翌年以降もビジネスを続けるには、減価償却の対象となった固定資産を再調達する必要があります。3年間の減価償却の結果、減価償却累計額は90万円となっています。3年経過した時点で固定資産が再調達されます。
 ただし、先述のように減価償却累計額90万円分の現金が存在するわけではありません。しかし、現金として存在しなくても90万円分の資産が維持されているので、例えばそれらを売却によって現金化するなり、担保として借入れることによって再調達に必要な資金を得ることができます。これが減価償却の効果です。 

(d)資産除去債務
 固定資産には、原子力発電設備の解体義務のように、その取得・使用者に、当該資産の除去が法律上や契約上義務づけられたものがあります。そうした有形固定資産の取得・使用によって生じた、当該資産の除去の法律上や契約上の義務を資産除去債務といいます。当該債務は発生時に負債として計上されます。その会計処理は、企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」に準拠して行われます。
 資産除去債務のポイントは資産除却費用を負債として計上する点よりも、むしろ資産除却費用を減価償却、つまり投資回収計算に組み込む点にあります。すなわち、固定資産の資産除去債務の理解にとっては、投資回収計算として説明すれば分かりやすいと思います。

(e)資産除去費用の投資回収計算への組込み
 以下では計算例で、資産除却費用の投資回収計算への組込みについて説明します。かりに、資産(機械装置)を除去する際に未支出のコスト(資産除去費用 90,000円)がかかるとします。固定資産の耐用年数が尽きた時点での資産除却費用を用意するためには、回収計算に予め組み込んで回収しておかなければなりません。そのため、資産を除去する際に発生する未支出のコストを、当該固定資産の取得原価に加算した金額を減価償却の対象とします。
 減価償却の対象である取得原価は既に支出されたものです。これに対して、資産除却費用は、固定資産の取得時点では未支出であり、あくまで将来の支出です。そのため、負債(資産除去債務)として計上されます。
 (借方) 機械装置 77,700円   (貸方) 資産除去債務 77,700 円 

 これらを図で表したものが下図です。

 先述したように、資産除去債務のポイントは資産除却費用を負債として計上する点よりも、むしろ資産除却費用を減価償却、つまり投資回収計算に組み込む点にあります。
 なお、各期末には、減価償却に加えて、資産除去債務が、金利分(年利5%)増額されます。第1年度末の仕訳は以下のようになります。
(借方) 減価償却費  325,900円  (貸方) 減価償却累計額 325,900円
(借方) 利息費用 3,885円      (貸方) 資産除去債務 3,885円

 資産除去債務は最初に述べたように、有形固定資産の取得・使用によって生じた、当該資産の除去の法律上や契約上の義務を負う企業だけの問題であるため、財務会計の教科書等ではあまり詳しく説明されません。そして、その理解には減価償却の効果の理解が必須なので難しいテーマです。本章では、減価償却の目的と効果の説明を前提に資産除去債務について説明しました。

いいなと思ったら応援しよう!