静岡県立大学「会社会計」の講義メモ:日商簿記2級を学んで世界を広げていく(4回目)
シイ・クリ・クリ・シイの呪文
「会社会計」4回目のテーマは「期末商品の評価」です。
内容自体は日商3級の範囲ですが、日商2級の範囲に入る前に理解があやふやだと当該範囲が理解できないので、まずは復習をしております。
「売上原価とは?」と「決算時における売上原価に関する決算整理仕訳」をポイントに講義をしました。
後者の決算整理仕訳を覚えるときに「シイ・クリ・クリ・シイ」の呪文(?)を用いる人がいるかもしれません。意味を理解して使っているのであればいいのですが、学生にヒアリングをしてみると、どうやらそうでもないようです。
こうした呪文に頼らず、決算整理仕訳を理解していくためにも、まずは「そもそも売上原価とは何か?」を理解するところから講義は始めていきました。
売上原価とは?
販売した商品・製品の原価を売上原価といいます。「販売した」という部分が重要です。逆に言えば、未販売の商品(在庫とか期末商品棚卸高と呼んだりします)については原価に含めてはいけません。
スーパーマーケットやコンビニなど、商業を営む場合の売上原価は基本的に仕入原価になるでしょう。製造業の場合は、販売された製品の製造工程で生じた費用(材料費・人件費(工場で働く従業員の分など)・経費)が売上原価に該当します。
※後者は工業簿記と呼ばれる範囲で重要となります。原価計算の基本となります。
さて、それでは売上原価を計算してみたいのですが、その方法がめっちゃ重要です。
売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期仕入 ― 期末商品棚卸高
この式を暗記してもいいですが、私は講義で以下のパターンを計算練習してもらっています。
〇売上原価の計算〇
・パターン1
当期にりんごを@100円で50個仕入れ 当期中に完売
⇒当期中に仕入れた商品が完売したので、売上原価は5000円となります。お店にとって最も理想の商売ですよね。
・パターン2
期首時点でりんごの在庫アリ(2000円分) 当期に5000円仕入 当期中に完売
⇒期首時点がイメージできない人は、お店のopen前の在庫、とでも捉えておくといいかなと思います。open前に2000円の商品が存在したのですが、それだけではすぐに売り切れてしまうと思い、追加で当期(営業時間中)に5000円分の商品を仕入れたわけです。完売したのですから、売上原価は7000円(2000円+5000円)となります。
・パターン3
期首時点でりんごの在庫アリ(2000円分) 当期に5000円仕入 期末に1000円分在庫アリ
⇒パターン2との決定的な違いは「期末に1000円分の在庫(売れ残り)」があること。これを売上原価に含めてはいけません。繰り返しますが、売上原価は「販売した商品・製品の原価」なのです。したがって、パターン3の売上原価は、パターン2の売上原価である7000円(2000円+5000円)から1000円を引いた6000円になります。
この6000円の計算方法が、まさに上記で書いた式なのです!
売上原価(6000円) = 期首商品棚卸高(2000円) + 当期仕入(5000円) ― 期末商品棚卸高(1000円)
売上原価に関する決算整理仕訳
決算整理仕訳を理解する際に「振替仕訳」と呼ばれる技術を知っておくと有益です。
例えば、「りんご勘定の借方(左側)に記帳されている500円分のりんごを果物勘定に振り替える」場合にどうするかを考えます。
ポイントは2つです。
(1)りんご勘定を締め切る。
仕訳:(借方)??? ・(貸方)りんご 500円
⇒このように、現存する勘定科目の逆側に同額の記帳をする作業を「締め切る」と呼んでいます。
(2)新しく振り返る勘定科目を記帳する
仕訳:(借方)果物 500円・(貸方)りんご 500円
それでは日商3級の試験で出題されることもある以下の問題はどうですか?
売上500000円, 仕入300000円, 水道光熱費100000円を「損益勘定」に振り替える。
まずは「収益項目」(貸方)である売上500000円を損益勘定に振り替えます。
仕訳:(借方)売上 500000円・(貸方)損益 500000円
「費用項目」(借方)についても同様に仕訳します。
仕訳:(借方)損益 400000円・(貸方)仕入 300000円 水道光熱費 100000円
ここまで理解したうえで、いよいよ売上原価に関する決算整理仕訳を見ていきましょう。
〇問題〇
決算において売上原価を「仕入」勘定で計算する。期首商品棚卸高は2000円, 当期仕入分は5000円, 期末商品棚卸高は1000円である。
まず、決算前に「繰越商品勘定」と「仕入勘定」はどうなっているでしょうか?
「繰越商品勘定」(時点をまたぐ場合に簿記では繰越と付けます。今回は商品が前年度⇒当期⇒次年度とまたいでいくわけです)には、期首商品棚卸高である2000円が借方(左側)に書かれています。
「仕入勘定」には5000円(借方)。
求められているのは、「繰越商品勘定」の借方(左側)にある2000円を、「仕入勘定」に振り替えることです!ここで先ほどの振替仕訳の出番です!
仕訳:(借方)仕入 2000円・(貸方)繰越商品 2000円
完売していれば、上記の仕訳で完了です!
ただ、今回は期末時点で在庫1000円が存在します。販売していない商品の原価は「仕入勘定」から減らす必要があります。加えて、期末時点の在庫1000円は次年度に販売することになるはずです(この前提に待ったをかけるのが2級の範囲で登場する棚卸減耗損と商品評価損です)。
これを満たすように以下のように仕訳をします。
仕訳:(借方)繰越商品 1000円・(貸方)仕入 1000円
まとめると…
(借方)仕入 2000円・(貸方)繰越商品 2000円
(借方)繰越商品 1000円・(貸方)仕入 1000円
上記の仕訳をZを書くように頭文字をとって「シイ・クリ・クリ・シイ」と覚えているのです。
ただ、本質は売上原価をそもそも何か理解していると導ける仕訳です!
これをベースとして日商2級の範囲に入る方が、理解がスムーズになるはずです。