アムステルダム(オランダ)で考えたこと アムステルダム(オランダ)~アントワープ、ブルージュ(ベルギー)~ロンドン(イギリス)の道すがら ② <第57回旅日記Nov & Dec 1995>
“道すがら”とは書いたものの、鉄道や船があるから思いのまま、思いつくまま、移動のできる大移動だ。ひとっくくりにしたのは、記憶の断片はあるけれど、物語として紡いでいく記憶はない。
どこへ行っても平らなところは厭!
どこへ行っても平らな郊外を近距離(東京から埼玉や横浜より遠くへ行く感じ。そう、成田まで各駅停車で行く感じに似ている!)の列車に、緊張感もなく乗っていると、アントワープとかブルージュに着く。
季節さえ春とか初夏であれば、街や家々を美しい花が彩り、街角のカフェでのんびりするのも心地よいと思うが、もう12月になろうとしているので、夜のイルミネーションぐらいしかない。「ダイヤモンド買います」のような派手派手した看板の店もけっこうあるが、そんなところに縁はない。ベルギーはヨーロッパ有数の地ビール大国らしいが、ピーチビールとか、あんまり・・・・。
アントワープとブルージュに1~2泊し、運河の脇をサイクリングしてみたが、まっ平らな風景の中では、前に進んでいる実感がなくて、面白くない。子どものころから慣れ親しんだ地名のフランダースに行くつもりをしていたが、行かなかった。
イギリスに渡ることにしよう。
12月1日午前11時50分発、ブルージュからバスに乗ってたどり着いた港から、イギリス行きのjetfollと呼ばれている高速船に乗った。海上をちょっと宙に浮いているのか、シートベルト着用が義務付けられている速い速度の船だ。12時25分には対岸のイギリスの港に接岸した。
ヨーロッパ大陸からイギリスに入国する人の入国審査は厳しいと聞いていた。特に数多くの国を長く訪れている者は怪しまれる。けっこう、疑い深いまなざしで、じわじわと聞かれ、職業を尋ねられたので、ジャーナリスト(3か月前まで全国紙の記者だったし、日本に帰ったら地方紙の記者になることが決まっていたのだから休暇中のようなもの!)だと答えると、急にニッコリとして「Welcome to England」と言って入国を認めてくれた。
「うん?、グレート・ブリテンとか、U.Kではないの?」と思ったが、口には出さなかった。
確かに、ここはイングランドであって、スコットランドやウェールズではないにしても、入国審査官がここはイングランドというのは変ではと思ったが、そこは自分のお国意識の源となるアイデンティティはイングランドなのだろう。
港から出ると鉄道の駅。イギリスではユーレールパスが使えないので切符を買わなければならない。ただ、いま、自分はどこにいるのかさっぱりとわからないが、まずはロンドンに行くことにしている。
イギリス人は意外とのんびり派?
近いと思ったのに、午後1時32分の列車に乗れたが、ロンドンに着いたときはもう5時17分だった。どうして?というくらいに時間がかかった。途中で停車して時間待ちを多いのだ。せかせかせず、のんびりというのが、もしかしてイギリス風?
そう言えば、イギリスの小さな駅の1つしかない窓口では、1人の人がとっても長い間、案内を受けていることが多かった。うしろに並んでいる人がいても、本人も駅員さんもそれが当たり前というふうで、まわりを気にする様子はない。また、並んでいる人も黙って待っている。次の人もけっこう同じように聞くからまた時間がかかる。4、5人の列なら、30分はかかりそうだ。
この状態は、日本人としてはけっこうつらい。乗り換えを尋ねたら、出発時間、到着時間、乗り換え時間、目的地への到着時間と、それぞれの駅のホーム番号まで記載した情報を瞬時に印字してくれたドイツの完璧なまでのシステムが恋しくなってしまう。
案外、この国の人々は人が好くて、おっとり、のんびりしているのかもしれない。
イギリス人の英語がわからなかったよ~
それよりも、困ったのはイギリス人の英語だった。ここは英語の国だからいままで訪れた国よりも旅がしやすいかなと思っていたら、大間違い。相手の人が言っていることが全然わからない。港の駅でさっそく戸惑った。英語じゃない、まったく知らない言語と出遭ったみたいで、大ショック! 9月から3か月過ごした旅で、「日本人にしちゃあ、英語がうまいよ」と欧米人ばかりのバスの中でおだてられ、自信をつけていたのにトホホ。
ところが、慣れというのはおそろしい。
2週間たってこの国を離れるころにはイギリス人の話す英語が大好きになっていた。真似はできないけど、鼻で話すような、ゆったりと優雅な、しゃべり(特に女性の)を聞くだけで、なんか古い時代の映画の世界に入ったみたいに五感が心地よい。そう、そう、馬車から降りてきた人が使うような言葉だ。
(1995年11月29日~12月1日)
てらこや新聞 第153~155号合併号 2017年2月
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?