砂糖の発火
概要
化学部らしく “火を使わないで”, とある液体をかけるだけで砂糖を燃やす
薬品
白砂糖(C12H22O11), 塩素酸カリウム(KClO3), 濃硫酸(H2SO4), マグネシウム粉末(Mg)
使用器具
2mLピペット×1
水槽, 三脚, ろ紙, アルミカップ, 薬さじ
実験手順
以下, 全ての手順はドラフトという機械の中で行う。
1. 水槽に水を張り, そこに三脚を立て, その上にろ紙を設置する。
2. アルミカップを2枚重ねた上に, 砂糖と塩素酸カリウムを3:4の割合で混ぜた物を乗せる。
3. 手順2のアルミカップに, マグネシウム粉末を小さじ一杯入れる。
4. 手順1のろ紙の上に手順3のアルミカップを乗せ, 濃硫酸をその上に数滴垂らす。
原理説明
[この実験のミソ]
1. 硫酸の脱水作用
2. 燃える3条件
[詳細]
今回の実験で火を使わずに砂糖(有機物)を燃やせたことには, 上に書いたように
“硫酸の脱水作用”と“燃える3条件”が関わっている。どのようなものなのかを解説していく。
1. 硫酸の脱水作用
硫酸(正確には濃硫酸)には, 脱水作用という性質がある。 この作用は読んで字のごとく, 物質から水分を抜き取る作用のことで, さらに水分を抜き取られた物質は熱を出す。 この実験の場合, 水分を抜き取られた砂糖には炭素(C)しか残らず, 真っ黒になってしまう。
より詳細な仕組みとしては, 硫酸がH+(水素イオン)を相手物質の非共有電子対の部分(OH-)に投げて, 相手のOH-と繋がりH2O(水)として生まれ変わるというものだ。
2. 燃える3条件
聞いたことがある受験生の方も多いのではないだろうか。 これは物が燃えるために必ず必要な条件のことを言い, 「①燃えるもの ②発火点以上の熱 ③酸素」の3つが揃うことで物が燃えるというものだ。
<実験原理>
燃える3条件がどのように満たされて砂糖が発火したのか, 以上の2点を踏まえて解説していこう。
①燃えるもの
今回の実験で燃やされた白砂糖の主成分はショ糖(C12H22O11)と呼ばれる糖で, C(炭素)を含んでいるので, “燃えるもの”である。
②発火点以上の熱
砂糖に硫酸をかけると, 硫酸の脱水作用によって砂糖から水分が奪われ, “熱”が出る。
C12H22O11=12C + 11H2O + 熱
③酸素
砂糖と一緒に混ぜた塩素酸カリウム(KClO3)は分子内に大量の酸素を含んでいるため, 硫酸が存在する条件下で強い酸化剤として働き, 大量の“酸素”を放出する。
2KClO3 → 2KCl + 3O2 (酸素)
以上, <燃える3条件>が火を使わずに揃ったことで, 砂糖を燃やすことができた。
全体の反応式は以下の通りである。
C12H22O11 + 12O2 → 12CO2 + 11H2O
補足説明
この実験では塩素酸カリウムが使われているため, 炎の中に金属であるカリウムの赤紫色の炎色反応が観察できる。 また砂糖は, グルコースなど, ショ糖以外でも代用可能である。
また, なぜ砂糖と塩素酸カリウムを3:4の割合で混ぜるのかというと, この比率が最も成功率が高いからである。
よくある質問
Q1. 硫酸の他に塩酸などは使えないの?
A1. 今回は火を使わずに砂糖を燃やすという実験なので, 火を使わずに熱を出すために硫酸の脱水作用を用いました。 また, 酸素を出す物質である塩素酸カリウムは硫酸の酸性条件下でないと酸素を放出しないという性質があります。 そのため, 硫酸と似ている, 物質を溶かす性質を持った塩酸や水酸化ナトリウムではこの実験は成立しません。
Q2. 砂糖以外でもできるの?
A2. もちろん, できます(開き直りではない)。 この実験において, 燃えるものであるC(炭素)と硫酸の脱水作用が働くための水分があれば砂糖の代用になります。なので, 食パン・ご飯の発火もあり得ますが, 砂糖は粒状になっているため酸素と反応する表面積が圧倒的に大きく, 容易に反応して激しく燃えるので砂糖を使っています。
Q3. 何℃ぐらい出てるの?
A3. 1000℃以上は出てると思います(測る手段がない)。よく見ていた方は, アルミカップ(融点660℃)が溶けて無くなる様子が見えたかもしれません。ですので最低でも7〜800℃は出ていると考えられます。
Q4. なんでマグネシウムを入れているの?
A4. 燃えるとき火花が散ってキレイに見えるから
参考文献
2019・2023年度 海城化学部誌
加藤俊二 『身の回りを化学の目で見れば』 pp.26〜27
『希硫酸, 濃硫酸, 熱濃硫酸の違いと7つの性質』
https://yama-taku.science/chemistry/property-of-the-material/sulfuric-acid/