Briggs Rauscher(BR) 反応

概要

Briggs Rauscher 反応(ブリッグス・ラウシャー反応)は透明⇒黄色⇒ダークブルー⇒透明⇒......という色の変化が繰り返される、視覚的にわかりやすい振動反応の一種である。振動反応とは一定の状態が規則的に起こる周期反応のうち、周期の短い反応を呼ぶ。振動反応はこの反応以外にもいくつか種類がある。


試薬

ヨウ素酸カリウム(KIO3)、硫酸(H2SO4)、マロン酸(CH2 (CO2H)2)

硫酸マンガン(MnSO4)、過酸化水素(H2O2)、デンプン


使用器具

100mlビーカー, 500mlビーカー

2mlピペット, 10mlピペット

コニカルビーカー, 薬さじ, 三脚, 金網, ガスバーナー, スターラー


実験手順

溶液 A:ヨウ素酸カリウム 21.5g に水を適量加えたあと、濃硫酸 1.5mL をいれてから純水で全体を500mL にする。

溶液 B:35%過酸化水素 33mL に純水を加えて全体を 100mL にする。

溶液 C:マロン酸 8.0g と硫酸マンガン 5.80g を純水に加えて 500mL にする。

溶液 D:デンプン 1.0g に純水を混ぜて 100mL にする(一度加熱して溶かす)。


原理説明

まず前提としてこの溶液には上記の通りデンプンが入っている。これはI2とI-が反応することで生成される、I5-とヨウ素でんぷん反応を起こし、この時溶液は青紫色になる。(概要 においてダークブルーとされていた色)

Briggs Rauscher 反応(以下BR反応と省略)では、このI-(ヨウ化物イオン)の濃度が重要になってくる。

BR反応の振動を説明する変化は以下のような式であらわされる。

IO­­­3- + 2H­­­­2O2 + CH2(CO2H)2 + H+→ICH(CO2H)2 + 2O2 + 3H2O ......(*)

この変化は次の2つの段階に分けられる。

IO­­­3- + 2H­­­­2O2 + H+→HOI + 2O2 + 2H2O  ......①

HOI + CH2(CO2H)2 →ICH(CO2H)2 + H2O  ......②

この反応のうち①はラジカル過程と非ラジカル過程の二種類の反応経路が存在し、I-の濃度により反応経路が選択され、I-の濃度が低いときはラジカル過程、I-の濃度が高いときは非ラジカル過程が選択される。また、これら2つの反応経路は反応速度に違いがある。ラジカル過程は反応速度が速い反応で、非ラジカル過程は反応速度が遅い反応である。つまり、I-の濃度が低いときは①の反応は速度が速くなり、I-の濃度が高いときは反応速度が遅くなるということだ。

これら2つの反応速度の差が、BR反応が振動反応になる鍵だ。

まず始めはI-の応速度が速いとき、HOIが大量に生成されるため②の反応においてHOIが消費しきれなくなる。すると以下のように過酸化水素によりHOIはI-に還元される。(実はこの反応は①の反応の途中過程である)

HOI + H2O2 → I- + O2 + H+ + H2O ......③

また反応②は実は以下の2つの段階に分けられる。

I- + HOI + H+ →I2 + H2O ......④

I2 + CH2(CO2H)2 →ICH(CO2H)2 + H+ + I- ......⑤

この中間に生成されるI2とI-が反応しI5-が生成されることでヨウ素でんぷん反応が起こり溶液は青紫色になる。

このようにしてI-の濃度が高くなると、①の反応は非ラジカル過程が選択され、反応速度が遅くなる。すると①の反応は②の反応に十分な量のHOIを供給できなくなり、③の反応も止まる。そしてI-は反応④により消費され、HOIと反応しI2 が生成される。すると大量のI2により溶液は黄色に変色する。(これは単にヨウ素水溶液が黄色いためである。硫酸銅水溶液が青いのと同じ)

このようにしてI-の濃度が低くなると、再び①の反応はラジカル過程になり反応速度は速くなる。するとI-が生成され①の反応は非ラジカル過程に戻り反応速度は遅くなる…というようなサイクルが起こる。I-の濃度が低くなったり高くなったりすることで、反応が周期的に起こっていたということが分かっていただけたと思う(思いたい。。。)このように、ある状態とある状態(BR反応だとI-濃度が低い状態と高い状態)を行ったり来たりする反応が振動反応とよばれている。

じつはこの実験はまだ研究されている最中で、BR反応において発生することが確認されているCO2の原因をまだ説明できていない。(反応式を見ていただくとわかるが、生成物にCO2がないことがお分かりいただけると思う)

ここまでかなり長くなってしまったが、よくある質問として、この反応はずっと続くのか、という質問がある。答えはNoでこの実験の場合だとおおよそ3分くらいすれば反応は止まる。なぜかというと(*)の反応(原理説明の一番最初に書かれている)を見てもわかるのだがH­­­­2O2とCH2(CO2H)2は常に消費されてなくなっていくので、これらがなくなるまで反応は続く。(この実験の場合だとCH2(CO2H)2が最初になくなる)

参考文献

Bassam.Z.Shakhashiri

「教師のための化学実験 ケミカルデモンストレーション 6」 pp18-27

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