錬金術
概要
怪しげな錬金術師によって何の変哲もない銅板の色が変化!?
試薬
水酸化ナトリウム(NaOH) 亜鉛粉末(Zn) 銅片(Cu)
使用器具
500mlビーカー×2
薬さじ×2、 三脚、 三角架、 ガスバーナー、 ピンセット、 ガラス棒、 キムタオル
実験手順
Ⅰ. 蒸発皿に蒸留水(H2O)を半分ほど注ぎ、そこに水酸化ナトリウム(NaOH)を薬さじの大匙1杯ほど、亜鉛粉末(Zn)を薬さじの小匙1杯ほどを加えてガラス棒でかき混ぜる。
Ⅱ. 「Ⅰ」の手順で準備されたものを、ガスバーナーで軽く沸騰するまで熱する。
Ⅲ. 蒸発皿に銅片(Cu)を入れる。
Ⅳ. 銅片の色が変化しきったら、ピンセットで取り出した後、蒸留水ですすぎキムタオルで軽く拭う。(こびりついた亜鉛粉末を取り除く。)……物質Aが生成されたとする。
Ⅴ. 物質Aをガスバーナーで色が変化し始めるまで熱し、500mLビーカーに入った蒸留水で急冷させる。…金属Bが合成された!
原理説明
この実験の操作そのものはすごく簡単ですが、実は原理は結構難しいです。できるだけ簡単に説明していきます。実は錬金術と名乗っているこの実験、本当の金が生成されたのではなく、銅板が「金色」に変化したというだけなのです。ここでは、錬金術の原理をコマごとにわけてみていきたいと思います。
1コマ目.薬品の混合(該当実験手順:Ⅰ)
※蒸発皿の中に蒸留水(H2O)、水酸化ナトリウム(NaOH)と亜鉛粉末(Zn)を入れた状態
水酸化ナトリウム(NaOH)は、電解質の一つです。電解質は水(H2O)に溶けるとイオン化します。つまりこの状態では、ナトリウムイオン(Na+)と水酸化物イオン(OH-)に電離して存在しています。
2コマ目.水素イオン(H+)の発生(Ⅱ)
※実は、前の段階でも水素イオン(H+)は存在していましたが、加熱するとより多く生成されます。この水素イオン(H⁺)は、電子(ーの電荷をもつ)と呼ばれる粒子を失った状態にあります。
3コマ目.亜鉛(Ⅱ)イオン(Zn2+)の発生(Ⅱ)
※2コマ目で説明したように、水素イオンは電子を失った存在です。そのため、亜鉛粉末(Zn)は、電子を水素イオンに渡すことが可能になります。
亜鉛が電子を渡す(つまり放出する)と、水素イオンと同じ電子を失った存在である、亜鉛(Ⅱ)イオン(Zn2+)になるということです。
4コマ目.テトラヒドロキシド亜鉛(Ⅱ)酸イオン([Zn(OH)4]2-)の生成(Ⅱ)
3コマ目で生成された亜鉛(Ⅱ)イオン(Zn2+)ですが、これは非常に不安定な物質です。そのため、生成されるのと同時に蒸発皿中の水酸化物イオン(OH-)と結合し、テトラヒドロキシド亜鉛(Ⅱ)酸イオン
([Zn(OH)4]2-)を形成します。
★要チェック ~テトラヒドロキシド亜鉛(Ⅱ)酸イオン~
・Zn2+に配位子としてOH-が4つ配位結合したことによる錯イオンの一種
・配位結合は比較的弱い結合である
5コマ目.亜鉛メッキの形成(Ⅲ)
4コマ目の状態の蒸発皿の中に銅片(Cu)を投入すると………・!?
銅片(Cu)は電流をよく通すため、銅片周辺に電子(e-)が多数集結します。
すると、銅片(Cu)の表面では、テトラヒドロキシド亜鉛(Ⅱ)酸イオン中の亜鉛(Ⅱ)イオン部分が電子(e-)を受け取り(還元され)、銅の表面で銀色の亜鉛メッキが形成されます。ここまでが銅板が「銅色⇒銀色」までの変化の流れです。
6コマ目:真鍮(しんちゅう)の合成(Ⅴ)
銅板が銀色に変化するまでの原理はすごく難しかったですが、銀色になった銅板が金色に変化する原理はさほど難しくありません。
先ほど説明した亜鉛メッキをされた銅板を加熱すると……!?
亜鉛(Zn)の融点<ガスバーナーの炎の温度
かつ
ガスバーナーの炎の温度<銅(Cu)の温度
であることから・・・・・・・・、
銅の表面の亜鉛メッキのみが融けます!
亜鉛は、ナノ粒子と呼ばれる非常に小さい粒子でできています。そのため、融けた亜鉛(Zn)は銅板内部に入り込み、銅(Cu)と金属結合して、真鍮(合金の一種)という金色の金属を合成します。
以上が銅板が「銀色⇒金色」に変わる原理です。
★要チェック~真鍮~
・銅と亜鉛の合金で特に亜鉛が20%以上のもの、黄銅とも呼ばれる
・身近なものでは、5円玉や金管楽器などに使われている
どうでしたか、錬金術の原理って難しいですよね。単純な実験手順の裏にここまで複雑な原理があるというのがこの実験の魅力だと思います。何か質問がありましたら気軽に班員に聞いてください。最後にこの実験の要点をまとめたいと思います。
~錬金術原理の要点~
①水酸化ナトリウム+亜鉛粉末+銅片⇒亜鉛メッキ(銀)
②亜鉛メッキが融解+銅片⇒真鍮(金)
補足説明
本実験の銅を亜鉛メッキする手順は、電気メッキでも行うこともできる。硫酸亜鉛水溶液中に亜鉛版をプラス極側に、銅板をマイナス極側につけ電源に繋げ、2枚の金属に電気を流すという方法でも銅板に亜鉛メッキすることができる。
参考文献
2017年度化学部部誌、2019年度化学部部誌