新宿ゴールデン街に潜む子悪党【第33話】
〜葛藤〜
カチッカチッ
何度引き金を引いても玉は出なかった。香が残りを抜いていたのだ。
「殺したいって言い出したのは私だけどさ、やっぱり殺すのはいけないよ。そう思った」
「だから玉を抜いたのか?」
「うん。ヒビちゃんが人殺しにならないように。やっぱりダメだよ。そんな復讐したってお母さん喜ばないよ」
「そうかな」
響は銃口を下げた。
「昔から思ってたよ。ヒビちゃんがこいつ殺すんじゃないかって」
「昔?いつからだ?」
「犯人の写真見せてくれた時。ヒビちゃん震えてた。何かに堪えてるんだと思ったよ。もどかしい思いを我慢してるっていうか。何か決意めいたものも感じたしね」
「あの時そこまで見抜いていたのか?凄いな。写真を見せただけで。それに『その写真初めて見た』ってリアクションは演技だったんだな」
「うん、だってその写真、私に廻ってきたものだもん」
「え?」
「マスコミにあの写真が廻ってきたんだよ。でも警察も動けない状態だから公表はしないって上の人が」
「そうなのか。じゃあロンソンの吉田さんに写真を渡したのは…」
「私。でさ、苗字も山崎だしさ、ピンとくるじゃん」
「こいつが道で私とぶつかった時、実はあれ?って思ったんだ。どこかで見た顔だなって。その時はあばらが痛くてそんなこと忘れちゃったけど」
村岡がジャックダニエルを飲みながら口を開く。
「今回はな、響本気やぞと。止めるしかないと。でもできることなら気がすむまでやらせてやりたいと」
「それでここまで協力してくださったんですか」
「でも、これで終わりや、足2発撃って自白させて。もう充分やろ。後は警察とマスコミに任せようや。もちろん今も録っとるで」
ポケットからボイスレコーダーを出す。
「でもそんなことしたら俺たちも罰せられます。香なんて銃まで撃ってる」
「ばれんかったらえーやん。俺らは顔知られたわけやないし、ここがどこかも誰も知らんねんから」
「私が警察に録音データ全部警察に送るよ。それで執筆をライターに頼む」
「そうか。ありがとう。じゃー香が危ない目に合わないように、組にも連絡が取れないように」
そう言って響は
「ガシャーン!」
「パリーン!」
と荻野のiPadとスマホを叩きつけた。
「俺はこいつ車で山連れてって適当なとこで下ろす。それで。しまいや。」