新宿ゴールデン街に潜む子悪党【20話】

〜語り終えて〜

「ざっとこんなもんです。殆どが子供のいたずらだ」

響は20ほどの犯行について語った。こんなにしゃべったのはいつ以来だろう。もしかすると過去最高かもしれない。

香はまだ足りないといった顔で

「もう終わりー?48個全部聞かせてよー!」

と言った。

「忘れたのもあるし、語ってもつまらないものもある。それよりこれ以上喋ると俺の舌が干からびる」

「でもよーそんだけやったなー。そのモチベーションどっから来てんねん?」

「犯罪を犯していて気づいたことが二つあります。一つはある種の中毒性があるということ。もう一つが成功すると達成感という快楽が伴うことです」

「やめられへんってことか」

「やったことはないですが、覚醒剤みたいなものです。一つ成功すると、すぐまた次の犯行について考えてしまう」

「お酒や煙草と一緒だね。パチンコとか」

「そう。俺は初めて空巣に入った時から止まれなくなってしまった。犯罪というギャンブルに取り憑かれてしまった」

「まー、誰を傷つけてる訳でもないし…あ、何人かやられてるか。でもそいつらは自業自得じゃん。ヒビちゃんは悪くないよ」

「そう思ってる。だからこそ良くないんだ。俺は自分が悪いことをしているという自覚がない。だから何度でも繰り返す」

響はラフロイグを一気に飲み干し「ふー」とため息をついた。

「やりたくなってまうもんはしゃーないやんか。善人が死んだりしてないんや。俺的には続けてもいいとおもうで」

「そろそろ捕まるかもしれない。なんだかそんな気がするんです」

「誰にも見られてないんでしょ?じゃー捕まんないよ。でもいざ捕まった時の覚悟は?」

「できてる」

「さすがヒビちゃんや」

村岡がうんうんと頷く。

「このまま続けてもいいとは思ってる。でも俺は勧善懲悪のヒーローをやりたい訳じゃない。それに、犯人の気持ちを理解するためにやってたことが、自分の趣味のようになってる。それは怖い」

「そっかー。それはちょっとよくないね」

「あと2回にする。それで俺の犯罪ごっこも終わりだ」

「2回てなんやねん。明日から頑張るみたいな言い方やな。ダイエットは明日からか?」

「あはは。でももう決めてるんです。何をするか。それには二人の協力が必要です」

「協力?まーえーけど何したらえーんや?」

「それはおいおい言います」

「面白そう!私もこの前の万引きの時いい感じのスリル感じたしね。乗った!」

響は写真を取り出した。

「こいつを懲らしめてやりたいんです」

「あっ!こいつ!私のあばら折ったやつ!」

響は49回目、50回目の犯行をこいつに捧げようと思っている。


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