変わるもの変わらないもの〜僕の同居人#5〜
奴がバングラから帰国し、共同生活が始まった。
相変わらず僕はストレスを溜め込む毎日を過ごしている。
今日はちょっと昔の話をしようと思う。
僕と奴との出会いは小学校の時だ。
出会いは、全く覚えてない。
以上だ。
中学はと言うと、一つも思い出はない。
以上だ。
高校は別々だ。
振り返ってみれば、
学生時代ちゃんと会話した記憶すらない。
強いて言えば奴が小学3年の時、
うんこを漏らしてちょっとした事件になったことくらいしか記憶にない。
そんな関係性の2人だったが、ある日を境に変わる。
高1のクリスマスイブだったと思う。
奴と再会することになる。
僕がバイト中のことだ。
たまたま中学の同級生数人と遭遇した。
その中に奴もいた。
今思えば不思議だが、その日出会った皆が違う高校に通っていた。
家も近くもない。
久々の再会で盛り上がり、流れで次の休みに遊ぶ約束をした。
今思えばその日を境に勉強しなくなった。
それまで割と高校では優等生だったのに。
まあいい。
僕らの地元はド田舎というほど田舎でもないし大した都会でもない。
非常に中途半端な街だ。
ただ、山も海もある。
遊ぶとなると専ら川か海になる。
僕たちだけかもしれないが。
勿論、自転車が僕らの唯一の移動手段。
約束の当日、僕らは昼間から海に向かった。
街の中心から南に30分ほど自転車を漕ぐと、
空は広くなり潮の香りと潮騒が僕らを誘う。
そこには、
砂浜と防砂林が延々と広がり、
前方に果てしない海面があった。
それだけで僕はかなり高揚した。
海に近い街でずっと暮らしていたが、
なかなか行く機会はなかった。
目的も理由もなく僕らは海に来た。
砂浜に腰掛け、
暫く黙ってずっと海を見つめた。
何も考えずただ海を見つめていた。
一日中ずっと海辺にいた。
ずっといられた。
夕方になれば海面に沈むまで夕陽を見送り、
夜になれば空一杯に輝く星たちを眺めた。
月があんなに明るいなんて初めて知った。
しまった。
こんなことを言いたかったわけではない。
その日、防砂林の一部で火事が起きた。
完璧なシチュエーションで青春してた僕らの関心は一瞬にして燃え上がる火に向けられた。
瞬く間に燃え広がり防砂林の一部が焼け死んだ。
最後は第一発見者である仲間の1人が事情聴取を受け、
保護者の機嫌が悪くなる前に帰宅した。
そんな海デビューである。
とにかくそれからというもの、
僕らの遊び場は海か川になった。
夏は特に楽しい。
岩の上から川にダイブしたり、
調子に乗って服を着たまま海に飛び込んだりした。
海の波が死ぬほど荒れ狂うものだから、
本当に死にそうに何度かなった。
奴はお気に入りの眼鏡を流された。
波が一瞬にして奴を海に引き摺り込み、
波から吐き出された奴は裸眼になって帰って来た。
アレは死ぬほど笑った。
そんなある日、僕は砂浜で自転車の鍵を失くした。
友人たちも一緒に探してくれたが、
最後まで見つかることはなかった。
施錠されたままの自転車に乗って帰ることはできない。
僕は友人の後ろに乗せてもらって帰宅した。
数日後、僕の自転車の回収に向かった。
わざわざ仲間たちも集まってくれたのだ。
仲間たちと共に石や木の棒でカギを壊すことに。
仲間たちはまず関係ないライトを割り、
ハンドルを曲げた。
そしてサドルを取外し、
代わりにド太い木の棒を生けてみせた。
自転車は半壊したが、
カギを壊すことに成功した。
僕は愛用の自転車に乗って帰ることができた。
当然感謝はしなかった。
毎回5.6人で遊んでいたが、
次第にポツポツとその数は減っていった。
仲が悪くなったとかではない。
むしろ仲は良かった。
今でも良い。
自然なあれだ。
そして、
気づいたら僕は奴と2人で遊ぶようになった。
これは大学生になっても社会人なっても続く。
その延長で今同居生活をしているようなものだ。
学生時代はどちらかという僕が奴を困らせていたと思う。
僕は奴との集合時間を守ったことがない。
2時間程待たせたことも多々ある。
ある日、いつも通り大遅刻していた僕に、
奴は電話越しで相当怒ってきた。
流石に急いで待ち合わせ場所に向かった。
数時間も待たされている奴の様子を道を挟んで伺う。
分かりやすく激怒りしている。
咄嗟に妙案が思い浮かんだ。
僕は横断歩道を渡って奴に走り寄り、
即座に奴の前で土下座をした。
奴は恥ずかしそうに、
「や、やめてくれ!」
と僕を必死に起き上がらせた。
公衆の面前での土下座が、
奴の激昂に勝った瞬間である。
そうやって僕は奴を怒らせ、
何度も難を乗り越えて来た。
その仇が今になって返ってきたのかもしれない。
最近はもう海なんて見てない。
のんびり海を眺める時間もないし、
予定も合わない。
僕と奴はあれから変わったんだか、
変わってないんだか。
結局のとこよく分からないけど。
今あの海を見て思うことは、
それぞれ違うんだろう。
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