
『まちの保健室』が食えない理由と持続可能な未来 〜地域デジタルヘルス拠点への進化戦略〜
なぜ、「まちの保健室」は事業として持続可能でないのか? そして持続可能にする方法とは?について考えてみました。
🔷「まちの保健室」が事業として成り立ちにくい理由
「まちの保健室」は、地域の健康支援拠点として重要な役割を果たす一方で、収益モデルの確立が難しく、持続可能性に課題を抱えています。主な理由は以下の要因が考えられます。
①ボランティア運営の限界
過去の試みではボランティアを中心に運営していましたが、人的リソースの確保が困難であり、持続的なサービス提供が難しい。良い人材が育たず、根付かず、来ず、設置者の引退とともに自然消滅の道をたどることも多い。
②個人課金の困難さ
保健室の概念は無料サービスという認識が強く、利用者からの費用徴収が困難。利用者も無料でサービスを提供するのが当然と考えている人がほとんど。
③資金調達の不安定さ
助成金や寄付に依存しており、長期的な資金確保が課題。また、設置者が別の事業で稼いで、資金を供給しているケースも多い。
④事業のスケールアップが困難
「食えない」モデルでは優秀な人材を集めにくく、地域を超えた展開が難しい。新たな就労の場として、社会的にも位置付けられていない。

🔷「まちの保健室」が持続可能なモデルに転換する必要性
このままの運営体制では、「まちの保健室」の普及や社会的インパクトの拡大は困難です。持続可能な形に進化させるためには、単なる地域健康支援の場ではなく、「地域デジタルヘルスの拠点」としての役割を持たせることが重要です。
特に以下の視点を取り入れることで、新たな価値創出と収益確保が可能になるのではないでしょうか。
① 地域のデジタルヘルス拠点化
地域におけるデジタルヘルスの中核拠点として機能し、スマートシティや都市OSとの連携を強化する。具体的には、医療・介護・福祉・健康関連のデータを統合的に管理・活用できるデータプラットフォームを構築し、地域住民の健康増進や疾病予防に貢献する。さらに、AIやIoTを活用し、リアルタイムでの健康データ解析、予測モデルの開発、パーソナライズドケアの提供を目指す。行政や大学、企業と連携しながら、デジタルヘルスの社会実装を推進する。
② 医療機関・介護施設との連携ハブ化
地域の医療機関、介護施設、訪問看護ステーション、薬局などと密接に連携し、地域包括的な健康管理を支援する。患者や高齢者が必要な医療・介護サービスを円滑に受けられるよう、情報共有基盤の整備を進める。また、多職種連携の場を提供し、医療従事者、介護職、行政、企業が連携しやすい環境を構築する。地域ごとの特性や課題に応じた包括ケアモデルを開発し、地域密着型のヘルスケアエコシステムを確立する。
③ 企業との連携によるフィールド実証の場
企業と連携し、地域における健康増進・疾病予防の実証フィールドとして「まちの保健室」を活用する。企業の新たなヘルステックやウェルネス関連サービスの試験運用の場として提供し、リアルデータを基にした有効性検証を支援する。これにより、研究費や事業費の確保を図るとともに、地域住民の健康課題に即した実用的なサービス開発を促進する。さらに、企業の健康経営支援の一環として、従業員向け健康プログラムの実証実験も行い、企業との共同研究・開発を進める。
④ 中小企業の産業保健支援
産業医や産業保健師が配置されていない中小企業を対象に、法人向けの健康支援サービスを提供する。具体的には、従業員の健康相談、ストレスチェック、生活習慣病予防プログラム、健康診断のフォローアップ、メンタルヘルス対策などを実施し、企業の健康経営をサポートする。また、リモート健康相談や定期訪問型の保健指導など、多様なサービス形態を用意し、中小企業が利用しやすい仕組みを構築する。これにより、法人向けの収益モデルを確立し、持続可能な事業として展開する。
⑤ 全国の「まちの保健室」のネットワーク化
単独の「まちの保健室」の運営にとどまらず、全国各地の拠点をつなぎ、統合的なネットワークを形成する。拠点ごとのノウハウや成功事例を共有し、相互に支援し合う仕組みを整備することで、サービスの品質向上と標準化を図る。また、全国規模でのデータ統合により、より精度の高い健康指標の分析や、地域ごとの健康課題の特定が可能となる。さらに、ネットワークを活用して、企業・行政・大学との連携を強化し、政策提言や新たなヘルスケアビジネスの創出を目指す。

🔷持続可能なビジネスモデルの実装
具体的な収益モデルとして以下の方法が考えられます。
①企業からの調査研究費の獲得
・地域の健康・介護データを活用したフィールドリサーチの提供。
・ヘルスケア関連企業との共同研究による収益確保。
②スマートシティや都市OSとの連携によるデータ活用
・健康・医療・介護データの統合管理を担い、行政・企業向けに提供。
・地域ビッグデータ(RWD)の解析を通じた新規ビジネスの創出。
③中小企業向け産業保健サービス
・産業医、産業保健師のいない地域中小企業向けに、健康診断・相談サービスを
提供。
・定額制の法人契約により安定した収益基盤を確保。
④「まちの保健室」ネットワークの構築
・各地域の「まちの保健室」をデジタルプラットフォームで接続。
・共通の研修・ノウハウを提供し、全国規模でのサービス展開を図る。
上記①〜④のような事業を「まちの保健室」が展開できるようになれば、新たなビジネスとして社会的な認知度も高まると考えられます。さらに、ここまで幅広く展開するのであれば、企業が自ら「まちの保健室事業部門」として運営する選択肢も考えられます。
🔷持続可能な「まちの保健室」へ
「まちの保健室」をボランティア型の施設から、地域デジタルヘルスの拠点として企業・行政・地域住民を巻き込んだ新しいビジネスモデルへと進化させることで、持続可能な事業として成長させることが可能になります。
単なる健康支援の場ではなく、
🚀 データを活用した実証実験のフィールド
🚀 医療・介護との連携ハブ
🚀 企業向け産業保健のサポート拠点
🚀 全国規模の健康ネットワークの形成
として機能することで、「まちの保健室」は地域社会にとって不可欠な存在となり、事業としても成り立つ仕組みが構築できると考えています。
