短編小説 南の空
出陣前夜、ふたり寝ずに過ごしましたね。あんなに沢山話したいことがあったのに、黙り込んでしまう私。そんな私を見て、あなたは笑顔で明るく振る舞ってくれましたね。電球が照らす小さな明かりの下、夜明けが来ないことを何度心の中で祈ったことでしょう。神様仏様がいるならばいつまでもこのままで、そう強く強く願いましたよ。
時は残酷なものです。願い叶わず、夜明けはいつも通りに訪れました。
夜明けを眺めながらあなたがひと言「あっという間だな」と。それからはふたり無言で夜明けの町を眺めていましたね。あなたの横顔見たら涙流れてるものだから、私の忍耐も限界、泣かないと決めていましたが泣いてしまいました。ご存知の通りお恥ずかしい程に。
朝食後、とうとうその時を迎えます。
「では、行って参ります」あなたは凛々しい表情で敬礼すると、私にこう言って出陣して行きました。「必ず帰ってくる。帰ったら今度はもう何処にもいかない」と。とても嬉しかった、けど寂しかった。
曲がり角まで何度も何度も振り返っては笑顔で手を振ってくれましたね。涙で滲んでしっかりその姿を最後まで見れなかったことが、今でも残念でなりません。
あの日から2ヶ月、とある夏の午後、あなたが南の海で亡くなったことを知りました。神風特攻隊として敵艦めがけ突入、消息をたったとのことでした。そんな大事な任務だったんですね。私に何も言わなかったのは、最後の夜の思い出をしんみりしたものにしたくなかったからなのでしょうか。確かに、そんなこと聴いてしまったら、只々悲しく寂しい思い出になってしまっていたことでしょう。それが最後の思い出なんて、あなたにも辛すぎますよね。
何も知らない私は毎日毎日、空に手を合わせてはあなたの帰りを待っていましたよ。綺麗な茜色の空なんかを見ていると、「ただいま」って背後から声がするんじゃないかって、いつもその声を待ち焦がれていたものです。
どんな気持ちで南の海に散っていったのか、それを思うと… 今でも涙が止まりません。
あなたと過ごした時間は決して多くはありませんでしたが、私はとても幸せでした。許されたなら、もう1日、もう1日だけ一緒に過ごす時間がほしかった。ただそれだけが心残りです。
あなたは幸せでしたか。
幸せだったと思ってくれますか。
早く知りたいですが、その答えを聴くのは… もう少し先になりそうですね。
南の空
もうすぐ帰ります
待っていて下さい
ツツツ…ツツツ…(これより突撃する)
これより あなたのもとへ向かいます
これからは
ずっと一緒 です
…ツ-
もし宜しければご覧下さい🙇♂️
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