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短編小説 知ってくれてありがとう
2月20日
なぜか私は裸だ。洋服を取ろうとタンスを開けようとするけど開かない。力一杯引くけどびくともしない。鍵がかかっているみたい。枕元に洋服が置いてある。濡れていて変な匂いがする。誰のだろう。何でこんなものを私の枕元に置くのだろう。嫌になってしまう。ここは本当におかしなことが多い。ああ寒い…
3月18日
トイレに行こうとしたら転んで頭を打った。痛みはないけど、何で転んでしまったんだろう。立ち上ろうとしたけど立ち上ることが出来なかった。「オムツ着けてるからトイレに行かなくて大丈夫ですよ」若い女の子が強い口調で言うの。オムツって何、私にはわからない。何か怒ってるみたいで怖かった。パンツを下ろそうとしたけど、何か固い腹巻きみたいなものが張り付いていて取り除くことも出来ない。本当に嫌になる。
4月14日
若い男の人が中年の男性を連れてきた。「息子さん来ましたよ」と言う。私はまだ結婚もしてなければ、もちろん子供などいない。「悪い冗談だ」そう言ったら、その男性、「息子の悟だよ」なんて近付いてきて言うから、気持ち悪くて押し返してやった。そしたら「しっかりしてくれよ❗」だって。何て失礼な人達だろう。何でそんな冗談にもならないことを言うの。嫌がらせは止めて❗
遺品の中、ボロボロの小さなノートを見つける。
そこには母の日々の苦悩が乱れた字体で綴られていた。
認知症だった母、病魔に苦しむ姿に私は絶句した。
涙が溢れ出す。
出来の悪い私を見捨てることなく、いつも優しく認めてくれた母だった。どんなことがあっても信じて支えてくれた母だった。
そんな母の病気を理解しようともしなかった。
支えてあげることもしなかった。
もう謝ることさえ出来ない。
母さん、ごめんよ。
知ってくれてありがとう
耳元でそんな声が聞こえたのはきっと空耳だろう。罪悪感や後悔がそうさせるのだろう。
病室、夜風が静かにカーテンを揺らしている。