カイゴが介護を始めたワケ|後編
前編はこちら
【2014年10月】
実家に戻ってから約半年が経ち、日に日に祖母の認知症は悪化しているのが分かった。
トイレも失敗するようになったし、徘徊時に毎日食洗器のお皿を片付けようとして落とすようになった、僕の名前もいつしか「あんた」に変わっていた。
何もかもがストレスで、汚いし寝れないしばあちゃんのことで両親はケンカするし、ばあちゃんの中に名前を忘れられた僕はもういないんじゃないかと孤独を感じていた。
そんな時に嫌なことは重なる。
「ドンッ」
また深夜3時頃に大きな音で目が覚めた。
でも僕は全く驚かなかった。
半年間毎日続いているからこの時間に起きるのには慣れている。
ただ、うるさい、早く終われ、さっさと寝ろよといらつきながら布団をかぶって寝る。
次の日は5コマ目だけの講義だったので昼過ぎに起きると、ばあちゃんはベッドで寝ていた。
ばあちゃんを見ながら心の中で(この時間寝るなら夜寝ろよ、まじで鬱陶しい)と考えていた。
すると、母がやってきて
母「カイゴ、おばあちゃんね、昨日の夜隣の部屋で転んでたみたい。いつも行かない部屋なのになんでだろうね。私が朝6時に起きてきた時に床で横たわってたんだけど、ずっとカイゴの名前呼んでたよ。一番カイゴのこと頼りにしてるんだね。腰打ってたから病院に行ってきたんだけど、かなり状態が悪いみたいでもう歩けないと思う。歳だから手術も難しいんだって。」
ばあちゃん、ごめん
僕が人生で一番後悔した瞬間だった。
ばあちゃんが僕に助けを求めていた間、僕は起きていたのにほっといて、さらにはうるさい、早く終われとまで思っていた。
名前、覚えててくれたんだ・・・
あの時僕が様子を見に行けてたら・・・
遅いかもしれないが僕は勘違いしていることにようやく気が付いた。
ばあちゃんは見えない敵と戦っているのに、僕は認知症と何一つ向き合おうと考えていなかった。
僕はばあちゃんじゃなくて、この病気と戦わないといけない。
この日、僕は5コマの講義の前に研究室へ向かった。
カイゴ「先生、お話があります。海上保安庁の推薦をお受けすることができません。僕はおばあちゃんと向き合いたくて介護士になることにしました。」
研究室の先生はあっけにとられているようで、研究内容と畑違いの仕事へ就こうとする僕が理解できなかったようだ。
先生「何を言っているんだ?カイゴ、一回考え直せ。介護士なんかになったら親が悲しむぞ。人のためじゃない、自分のために仕事は決めたほうがいい。」
せっかく先生が推薦をくれていたが、僕は先生に深々と頭を下げて断った。
先生「いいんだな、後悔するなよ、お前のために言ってるんだからな。絶対大変だぞ。」
僕は先生にありがとうとごめんなさいを言いたかったが、涙ぐんでいたので何も言えず頭を下げたまま次の講義へ向かった。
20時前に家に帰ると、ばあちゃんはまだベットにいた。
ばあちゃんの顔を見ると申し訳なさで涙が出そうになる。
すると、僕の足音に気が付いたのかばあちゃんがこっちを向き
ばあちゃん「かかカイゴ、きょきょ今日はあんたのたんじょうびだろう。ほら、たたたんじょうびだから。」
そう言ってばあちゃんはくしゃくしゃになった5000円札を僕に渡した。
完全に忘れてたけど、今日は僕の誕生日だ。
カイゴ「ありが・・・」
ここまで言うと、僕は大声で泣いた。
ばあちゃんがどうして隣の部屋で倒れていたのか、この時ようやく分かった。
隣の部屋にはばあちゃんのカバンが置いてある。
誕生日のための5000円を取り出しにいってくれたんだ。
僕の名前を、誕生日を覚えていてくれて本当にありがとう。
一緒に認知症と戦おう。
~~~~~~~あとがき~~~~~~~
これが介護を始めた理由です。
後編書くのが遅くてごめんなさい!
最初は介護を辞めた理由というタイトルにしてたんですけど、やたら長くなりそうだったので辞めた理由は別で書くことにしました笑
ちなみにサムネイルはロールキャベツ男子の僕(僕)がロールキャベツを作っている最中の写真です。
お付き合いありがとうございました。
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