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できるだけ多くの海事人材を世に送り出す(その2)〜最悪の高校受験〜


島育ちで勉強嫌い

私は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島の出身である。
伯父と父は、内航(国内航路)の199総トンクラス(3人で運航する小さな船)のケミカル船(液体化学薬品を運ぶ船)の船長と機関長で、所謂一杯船主と呼ばれる1隻だけで海運業を経営する小さな会社の家系である。
自然豊かな環境で、家にテレビゲームなど無く、子供の頃は学校が終わるとすぐに帰宅し、家に鞄を投げ捨て、外で暗くなるまで遊び呆けたものである。
宿題もそこそこに、夜は疲れ果てて20時には就寝。そんな絵に描いたような昭和の子供時代を過ごしていた。
そんなことだから中学生になっても勉強に特別興味が湧くはずもなかったが、3年生になると受験という現実が襲い掛かってきた。
地元の高校は答案用紙に名前さえ書けば必ず受かるという噂だったが、出来れば地元の島から出たかった。
いつも母の口癖が「うちは貧乏だから」ということもあり、早く就職が出来る高専を考えた。
機械いじりが好きということもあり、工業高専への進学を考えたが最も近い工業高専は、私の成績では合格が困難と思われた。

商船高専を目指して

何故、商船高専を目指したかと言うと、理由の一つは、貧乏だったからだ。
と言ってしまえば全て終わってしまうのだが、やはりこの理由は捨てがたい。
今となって考えてみれば母に洗脳されていただけかも知れないが、少なくとも私が小学生になる頃まで、父はちゃんとした月給を頂いていなかったようである。
二つ目の理由は、大学に行きたくなかったから。
というよりも、英語が苦手だった私は、大学に進学できる自信がなかった。
そして、三つ目の理由は、大学に行く意味が分からなかったから。
学歴社会と化していたあの頃、中学卒で就職することなど考えられなかったし、近くに工業高校等はなかった。
頭の悪い私には、早く一定の学歴をつけて就職するための手段としてに高等専門学校進学しか思いつかなかった。
と言っても、商船高専を考え始めたのも、進学について考え始めたのも中学3年生の夏休みが終わってからなので、かなり遅くなってのことである。
きっかけは、夏休みに商船高専に体験入学をしたことであろう。
2泊3日だと記憶しているが、ヨットに乗ったり、カッターを漕いだり、手旗信号を習ったり、そして、宿泊が学校の練習船だったりと、船ずくしの3日間だった。
従兄も卒業した学校でもあったし、従兄を知る教官も居た。
私の居た中学校からは2年に1人ほどの入学者の割合で、かなりハイレベルのように思われた。
しかし、自分の家から最も近い工業高専よりは、受験倍率がかなり低かった。
特に、船に乗ろうと考えたわけでもない。
しかし、ここなら自分の成績でも可能性はあるし、就職に有利なのではないか?そう思った。
受験したのは、機関科だった。いろんなものを分解することが好きだったし、造船にも興味があった。何より、卒業後の就職の幅が広かった。
受験科目は、英・数・国だった。正直、数学以外、全く自信がなかった。
数学は、中学校でトップクラスだったが、英語は、テストで50点以上を採った記憶がなかった。
それまで、家で勉強などしたことがなかったが、中3の2学期から悪あがきで、勉強を始めた。

寒気のする一次試験受験

1月の下旬だったと思うが、広島市内の受験会場で筆記試験を受けた。
雪がちらつく寒い日で、試験中寒気がし始めるほどだった。
手応えは最悪だった。得意としていた数学は、途中でテンパってしまい、全部をやりきることさえ出来なかった。他の教科は、何とか最後まで問題に取り組んだが、不得意教科であったこともあり全く手応えはなかった。
帰りの高速艇での気分は最悪だった。
海が荒れていたため、更に気分は悪くなっていった。次の日から3日間、高熱のため、学校を休んだ。

島から島へ

なぜか一次試験に受かってしまった。その何故かは、後に判明することとなる。
二次試験は、面接試験。
これまた瀬戸内海の島にある本校で行われた。
今では何を話したか全く覚えていないが、窓から見える海の景色はぼんやり覚えている。
正直自信は無かったが、お金をかけたくなかったので私立高校をすべり止めとして受けていなかった。
すべり止めには自分を追い込むために、行きたくもない地元の公立高校を選んでいた。
結局、受験倍率は1.3倍であり、さらに入学したのが定員割れであったため、無事に合格した。
島から島へ。別の島での寮生活が始まった。

ずいぶん後になって(卒業後)のことだが、父が、商船高専に入ることに反対であったという話を母から聞いた(直接聞いたわけではない)。
当時は急激な円高による外航海運不況の真っ只中。
今考えると、たまたま海運業界の不況により船員の大量のリストラが行われた時期に船員を育成する学校を受験して合格しただけに過ぎない。


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海技塾 塾長
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